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告白
「…共同墓地ですか」
「母さんと話し合ってたみたいで。同時に入る訳じゃないなら、1人は寂しいねって。皆と一緒がいいねって…」
「まあ、一理あるね」
加賀美の人間が、共同墓地に入るとはな
「そこの教会で育ったのか?」
「そうです」
なるほど…
山と田んぼに囲まれてる
「学校は、この辺りにあるのか?」
「ちょっと遠いんです。50分位かかるので」
「50分?!1時間かけて歩いてたのか?」
「慣れると苦じゃないし、楽しいですよ」
「それで山駆け回ってたら、体丈夫になるね」
「はい!」
山…
あの山の中に入って遊んでたのか
…信じられない世界だな
庭で遊んでても、色んな人に色んな事を言われたのに
「父さん、加賀美さん連れて来たよ。加賀美さんにも、佐久間さんにも叶さんにも、あと、今日は、来てないけど如月さんや、九条先生や皇先生や、琢磨さんにも、凄く親切にしてもらってるから、安心してね」
結が、しゃがみ込んで墓に話し掛けている
綾仁に…
報告する為に来たんだ
「結、お前に…言わなければならない事がある」
「はい…?」
結が振り返りながら立ち上がって、こっちを見る
「お前の父親は…綾仁は…なかなか裕福な家に生まれたんだ」
「…そうなんですか」
「綾仁には…双子の弟が居て…いつも一緒だった」
「…え?」
「臆病で…情けない弟は……将来への不安や、周りからの視線…期待されるプレッシャーに…負けない様に、とにかく必死だった...」
「……」
「綾仁は…そんな風には見えなくて……次第に避ける様になって…俺が…一方的に距離を取った」
「…加賀美さん?」
「だから…綾仁が何か悩んでる事に気付いてあげられなかった。突然…居なくなって…それでも俺は、探そうともせず……お前の母親が亡くなった時…綾仁から手紙が届いた」
「え?」
「なのに…返信もせず…住所を知っても会いにも行かず……」
「…加賀美さん?」
「お前の父親の、元の名前は…加賀美 綾仁だ。綾仁は…俺の双子の兄だ。俺は…お前の叔父だ。今まで黙ってて…すまなかった」
「………え?…父さん…が……加賀美さんの……加賀美さんが…俺の……え?」
「お前は…俺の甥なんだ。俺が…さっさと綾仁に…連絡なり…会いに行くなりしてれば…お前がこんなに不安になる事もなかった…綾仁も…少しは安心出来てただろう…すまない…すまなかった…」
どんなに謝っても
綾仁が居る時間には戻れない
どんなに後悔したって
もう遅いんだ
「…か…加賀美さん…父さんと……双子だったんですか?」
「ああ…そうだ…」
「…ふっ…良かった……うっ…良かった…」
良かったとは…
自分の身内が居て良かったという事か?
「…っ…父さん…テレビでっ……双子のっ…特集やってた時っ…」
双子の特集?
そんなのあるのか
「…考えてる事分かるとか…っ…やっててっ…俺…兄弟も居ないから…そんな事あるのかな?って言ったら…っ…父さんの知り合いの双子はっ…よく同時に同じ事考えてたよって…」
「…そうか」
「…っ…同時に…同じ歌歌ったり…突然面白い事思い出すと…同じくもう1人も思い出して笑ったり…」
「…ふっ…そんな事もあったかもな」
「話さなくてもっ…分かるんだよ?不思議だよね?って…自分の事みたいにっ…話しててっ…あれっ…加賀美さんの事?」
「そうだろうな」
「そうだろうなって何ですか。他に誰が居るんです?」
「ぼけっとしてないで、結抱き締めてやれよ」
「…うっ……」
なんか…自分が叔父だと名乗ったら…
改めて甥っ子だと思うと…
緊張…
「結…あまり泣くな…」
ゆっくりと抱き締める
「…うっ…加賀美さん~…父さん…嬉しそうだったよ……加賀美さんと双子だったの…嬉しそうだったよ…」
この子は…
どこまでも人の事ばかり…
「俺も…嬉しかったんだ…楽しかったんだ…けど、俺が弱いばかりに綾仁に寂しい思いをさせた…結にもだ」
「…加賀美さんっ…俺のっ…叔父さん?」
「そうだ」
「俺のっ…ほんとの叔父さん?」
「そうだ。叔父なのに、寂しい思いさせて…優しくしてやれなくて…悪かった」
「…~~っ…加賀美さんっ…加賀美さんっ…う~~っ…俺っ…1人ぼっちじゃなかった…」
1人ぼっち…
どんなに親切な人達が居ても…
楽しそうでも…
そんな風に思ってたのか……
「1人じゃない。ちゃんと俺が居る。仕事…忙しいから、あまり会えないが…」
ぶんぶんと結が首を振る
「いいっ…加賀美さんが…すぐ会えるとこに居てくれるだけでいいっ…加賀美さんっ…居てくれるだけでいいっ……俺…1人にしないでっ…」
「…結…1人にしない。ごめん…ずっと寂しかったな。辛かったな。ごめん」
「…うっ…加賀美さんっ…加賀美さんっ…加賀美さんっ…」
「…結…ちゃんと…一緒に居る準備しような」
「うん…加賀美さんと…一緒に居るっ…」
今までの遠慮がちなのではなく
思いっきり
小さな子供が甘える様に
ぎゅっと掴まる様に抱き付いてきて
どれだけ本当は
誰かにそうしたかったのかと思った
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