エド

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エド

「加賀美さん、あの、ちょっとだけ教会に寄ってってもいいですか?」 「ああ。お前の面倒を見てくれてたんだろ?挨拶していこう」 「はい!」 「結君!えっ?結君?」 「結君!…よく来たね」 「ああ…結君、元気だったかい?」 「結…お帰りなさい」 「エド!皆!」 皆…皆変わりない 1人ずつ優しく抱き締めてくれる あったかい 「エド…元気だった?行く時会えなかったから…家族、大丈夫?」 「大丈夫だったし、この教会も皆も変わりないよ」 「あれ?結君、ここ怪我したの?」 「あ…ちょっと椅子にぶつけて…」 「椅子か。さすがに木の枝に引っ掻けた訳ではないんですね?」 「すぐに病院で診てもらったので大丈夫です」 「相変わらず、やんちゃですね」 しばらく俺達から少し離れた所で見てた加賀美さんが、 「初めまして。結の叔父の加賀美です。少し… いいですか?」 そう言って、中で話をする事になった エドは、エドアルド・ロッソ ほぼ日本で育ってるイタリア人 うちの教会によく来てて 別の大きな教会の副牧師さんだったけど 父さんが、是非うちを継いでくれと言ってた 俺は、1番歳が近いエドが大好きだった 父さんが亡くなった後 すぐにエドの家族も倒れて、イタリアに帰ってた ちゃんと戻って来て この教会に居てくれたんだ 父さんの双子の弟である事 父さんが家を出てしまい その後連絡も取ってなかった為 少し事情が複雑になってしまっていた事 「結君…叔父さん居たんですね…」 「綾仁さん…加賀美さんだったんですか…」 そして、俺の病気の事 「…え?結君…そんな……過呼吸を?」 過呼吸… 「でも、いつも誰かが近くに居てくれるので大丈夫です」 「私の知り合いの病院が、児童専門のそういう科の医者で診てもらっています」 「…そう…ですか」 あ…皆、凄く心配そう… 「結、結はどうしたいんだい?ここにも、結の居場所はもちろんあるよ?結がここに居たいなら、ちゃんと病院にだって連れてく。結の為に力を貸してくれる人は沢山居るよ?」 「……ここは…俺にとって凄く大切な場所。大切な人達が居て、父さんも母さんも居る。けど…俺は…加賀美さんと居たい。父さんと双子の…俺の叔父さんの…加賀美さんと一緒に居たい」 エドは、少しの間俺を見てると ふっ…と笑って そして、皆も笑ってくれた 「結の好きな様に…」 「ここは、皆で守ってるからね」 「いつだって、会いにおいで」 あ… 「うんっ……ありがとう」 「加賀美さん、廣川(ひろかわ)といいます。朝比奈さんに頼まれて、結君の色んな事託されてました。色々…引き継いでも?」 「お願いします。佐久間…」 廣川さんが、話し出すと、 「結、久しぶりに少し歩くかい?」 エドがそう言って誘ってきた 「叶さん、いいですか?」 「結のしたい様にしていいよ」 教会の中、父さんと暮らしてた場所、教会の周りの庭、田んぼ 「エド、ヒデじぃと、ヨネばぁ、元気かな?」 「3日位前に、村瀬さんが様子見に行って、元気そうだったってよ」 「そっか…」 良かった… 「…結、久しぶりに抱っこしようか」 「え?!エドが大きくたって、俺もう13歳だよ?コート着てるし、無理だよ」 「そうかな?」 「わっ…!え…わぁっ…凄い!エド、重くないの?」 「全然。まだまだ結の事抱っこ出来るぞ?」 「へへっ…エドの抱っこの景色懐かしい~っ…たか~い!」 「高いだろう……結、綾仁さんから離れた場所で、寂しくないかい?」 そりゃ…寂しいけど… けど… 「結、どんな時だって、何処に居たって、1人じゃないんだよ?それに気付けたら、また優しくなれるよ?結は、強くて優しい子だから、きっと気付いてくれる」 「…綾仁さんが言ってた?」 「うん。忘れた頃に…忘れて欲しくない様に言ってた……だから大丈夫。離れてるけど、きっと父さんも母さんも見守ってる。離れてても、エドも皆も思ってくれてる。まだ、分からない事も沢山あるけど、今、俺の周りに居る人達も…皆凄く俺を思ってくれるから…だから、大丈夫」 忘れない様に… 何度も…何度も… 父さんは俺を遺していく準備をしてたのかな 「エド…父さん、多分俺を遺して、早く死んじゃうの…知ってたんだと思う」 「……そうかもしれないね。廣川さん、ちゃんと色んな事聞いてたし、綾仁さんが亡くなった時、全然困る事なかったって聞いたよ」 「俺は…知らなかったから……知ってても…出来る事なんて…そんななかったけどっ…」 「結…」 「俺っ…父さんにも母さんにもっ……何にも出来てないっ……父さんっ…寂しいのに、ずっと頑張って…俺にいっぱい…楽しい思いさせてくれたのにっ……俺っ…何にも返せなかったっ…」 もっともっと話せば良かった もっと毎日一緒に寝れば良かった もっと色んな事お手伝いすれば良かった もっと父さんの事…母さんの事…加賀美さんの事…聞けば良かった 「うぅっ…エドっ……父さんっ…居なくなっちゃったっ……俺がっ…俺がっ…りんごっ…~っ落としたせいっ…!」 「リンゴ?」 「父さんっ…いっぱい荷物持ってたっ…からっ……雨降って…傘さすっ…からっ…俺っ……荷物っ…持つって……俺がっ…落としたりんごっ……父さんっ…拾いに行ってっ……そしたらっ…うぅっ~…」 「結…そっか」 「父さんに向かって…っっ…車っ……父さんっ…居るのにっ……父さんっ…そこに居たのっ…~~~っ!俺のせいっ…!」 俺がりんご落とさなかったら 父さん拾いに行かなかったら あのタイミングであそこに居なかったら エドが、抱き上げたままで 頭を撫でてくれる 「分かったよ。結。ちゃんと話せて偉いね。俺が、ちゃんと聞いたよ」 「うっ…ごめんなさいっ……うっうっ…ごめんなさいっ…ごめんなさいっ…」 「うん。ちゃんと聞いたよ。ちゃんと聞こえてるよ」 エドの落ち着いた… 優しい話し方… 安心する 俺が悪いの…ちゃんと聞いてくれた 俺の謝罪…聞いてもらえた 「ごめんなさいっ……うっ…父さんっ……まだっ…一緒に居たかったっ……ごめんなさいっ…俺っ…俺のせいっ…ごめんなさいっ…」 「分かったよ。ちゃんと聞こえてるよ。綾仁さんにも聞こえてる」 「うっ…父さんっ…ごめっ…ごめんなさいっ…」 「うん。分かったよ、結」 エドは、ずっとずっと言いたかった言葉を ずっと聞いてくれていた
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