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「…結!大丈夫か?!」
「結君!叶!さっさとどけろ!」
「ん~?…あれ?結、大丈夫?」
「………」
反応…が……
「結!」
「結君!大丈夫ですか?!」
「結~、目覚ませ~」
こいつ!
「叶!お前、何考えてんだ?!」
「何、アツくなってんの?」
「結に何かあったら…」
「ベッドに頭ぶつけた位で、何かあるかよ?結、結~」
少しも反省してない!
「叶…!」
「…ん?…ってて…」
結が目覚めた
「結!大丈夫か?!」
「結君、頭打ったので、すぐに起きない方がいいですよ」
「頭...そっか…」
「ごめんな、結。勢い余った」
「大丈夫です。俺、頭硬いので」
「そっか。よし、ゆっくり起きれるか?」
「はい。ありがとうございます」
叶が、俺達の心配を余所に、結を起こす
「大丈夫そうか?たんこぶ出来た?」
「どうかな?木登りして落っこちた時より痛くないです」
「おお!結は木登り出来るのか?」
こいつ…
「はい。凄く大きな木じゃなきゃ登れます」
「じゃ、今度…」
何を勝手に
「駄目だ!駄目に決まってるだろ。叶、勝手な行動するなら、結の傍には居させられない。分かってるな?」
「……はぁ…木登り得意な子に木登りさせていいですか?」
「駄目だ。育ってきた環境と違うんだ。慣れない場所で、危ない事をさせるな」
「……あんた…薬飲ませて、部屋に閉じ込めとけば、結が元気になるとでも思ってんの?!」
「なっ…何だと?!」
「叶、それ以上はやめておけ」
佐久間が声を掛けると
「…ごめん、結。おっきな声出して」
「…いえ…あの…すいません。次の受診の時、先生にどんな事したら、早く治るのか聞いてみます」
「…っ」
どんな事したら…って…
「俺も…悪かった。その…体調が良くない時に…高い所に登ったりして、何かあったらと思って…心配しただけだ」
「…はい。沢山心配かけてしまって、すいません。しばらく、ちゃんと薬飲んで大人しくしてますので、安心して下さい」
これは…
さっき、叶が言ったから…
俺に心配かけないように……
「…っ…叶…」
「何?」
「高い所じゃなければ…危ない場所じゃなければ…気分転換に、景色のいい場所に連れてくのは…いい」
「…え?」
「花…とか…田んぼ…見える場所が…いいんじゃないか?」
「……っいいと思う!結!そういうの、見えるとこ行こ?」
「え…でも…」
結が、心配そうにこっちを見る
「調子が悪い時は、すぐに叶に言う事。怪我する様な、危ない事はしない事。守れるか?」
「…はい!ありがとうございます!」
嬉しそうな笑顔
バッタと、コオロギと、キリギリスと…
「良かったですね?結君」
「はい!」
カマキリだったか?
「結、いい場所探して、いっぱい見に行こうな?」
「はい!」
田植えの手伝いして…
こんな建物の中より、ずっといいに決まってる
「結君と、沢山話せたのか?」
「まあ…少しはな」
「まさか、伊織の口から田んぼってワードが出てくるとは思わなかったからな」
「彩仁と…近所の田植えの手伝いをしていたそうだ」
「それは、貴重な体験だな」
「彩仁が、誰よりも楽しんでたらしい」
「ふっ…そうか」
彩仁は、どんな格好で手伝っていたのか
「そう言えば昔、彩仁に聞かれた事があったな」
「何をだ?」
「俺達が幼かった頃、加賀美の家の庭師だった…」
「嶋さんだ。俺達は嶋じぃと呼んでいた」
「ああ…その嶋じぃの服は、何処に売ってるのかと。家の者には聞けないからと言っていたな」
「…ははっ…なんだ、あいつ…佐久間にまで聞く程欲しかったのか。彩仁は、嶋じぃに憧れてたんだ。よく、カッコいいと言っていた」
「…変わった奴だな。あの家で、どう育つと、庭師に憧れるんだ?」
「さあな…俺には理解出来なかったが、ほんとにいつも嶋じぃの傍で、作業を見てて、自分も沢山花を咲かせてみたいと言っていた。そんな事したら、庭にも出してもらえなくなると言うと…寂しそうに、ミミズの方が嶋じぃの手伝いが出来てると言っていたな」
土まみれになってる嶋じぃに憧れてた彩仁
そんなのは、幼い頃の思い出になってるんだと思ってたが…
喜んで田植えをしていたのなら
あの頃からずっと、彩仁の思いは変わってなかったのか…
俺達が中学に入る前に
家の庭師は、嶋じぃから、次の後継者へと変わった
嶋じぃじゃなくなったので、庭師の傍に行かなくなったのかと思ってたが
傍で見てるのが、辛かっただけなのかもしれない
実際、庭師の居ない庭で
彩仁はよく花を見ていた
花の何がそんなにいいのか
俺には理解出来なかったし
徐々に、自分の事で精一杯になってったから
彩仁が、どんな気持ちかなんて
ちゃんと考えてやれなかった
「佐久間…彩仁に、虹を見せられた事はあるか?」
「虹?……そう言えば、いつだか騒いでた様な…」
「俺は、よく見せられた。だから俺は、しょっちゅう出てるもんなんだと思ってた」
「しょっちゅうは見れないだろ」
「ああ…でも、多分…彩仁は虹の出やすい条件とか分かってて、そういう日は探してたんだろな。俺達の部屋の方から見たり、玄関の方角だったり…だから、彩仁と距離を置く様になってからは、全然見る事がなくなって…何故最近、虹が出ないのかと不思議に思っていた」
虹は出ていたのだろう
彩仁は、見ていたのだろう
俺にも…見せたかったのかもしれない
「お前達…何かあったのか?」
「…何も……ただ、俺に余裕がなくなってったのと…いつでも余裕がありそうに見えた、彩仁への嫉妬だ」
「…喧嘩したのか?」
「いや…ほんとに何もなかった」
ただ、一方的に俺が…
「なるほど。彩仁は、理由も分からないまま、急に伊織にそっぽ向かれた訳だ」
「…そう…思われても仕方ないだろうな。実際俺は、彩仁に対して、いい感情は持ってなかった。話し合いなんかしたら、喧嘩になってたかもしれない」
「溺愛してた双子の弟に、思い当たる理由もなく疎遠にされてたとはな」
「…溺愛?」
何だ?突然…
「彩仁は、いつも伊織の事を、可愛い可愛い言ってたからな」
「…は?!」
「伊織に言うと、真っ赤になって固まるから言えないんだ。佐久間聞いて?って、俺がお前達のとこに行く度、お前のどんなところが、どんなに可愛いのか聞かされてたぞ」
「なっ…!しっ…知らないぞ」
「そりゃ、彩仁に内緒だと言われてたし、俺も中学入ってからは、お前達と会って話す事なくなってったし、大学生の伊織に、わざわざ教える事でもないしな」
「うっ…そりゃ…そうだ」
「聞きたいのなら、お前のどんなとこを、彩仁が可愛いと思っていたのか、教えてやるが?」
「ひっ…必要ない」
「ま、聞きたくなったら言えよ」
「お前も…さっさと忘れろ」
「それを言ってくる彩仁も可愛いかったからな。忘れられないだろうな」
彩仁が可愛いかった?
こいつ…そんな目で彩仁の事見てたのか?
「…さっさと忘れろ。今すぐ頭から消せ」
「さて、そろそろ会社に着きますよ」
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