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受診
「九条、久しぶり」
「おう。結君、元気だったかい?」
「はい。お久しぶりです、九条先生」
「叶。酒ありがとな。喜んでたよ」
「ああ。日本でも人気あんのか?」
「さあ?俺にはさっぱり」
九条先生…
眠れてないのかな
目の下…クマ
「?…どうかしたかい?」
「あっ...」
あんまり見てたら、九条先生が話し掛けてきた
「九条先生も元気でしたか?」
「…元気だよ?」
「あ...良かったです。ちょっと…眠れてなさそうに見えたので…」
「ああ…ここんとこちょっと忙しくてな。睡眠不足なんだ。でも、そんなのは慣れてるから大丈夫だよ」
慣れてるんだ
加賀美さんも眠れてないし
こっちの人は皆、忙し過ぎて眠れないのかな
慣れたら、寝なくても疲れない?
九条先生が、ポンッと頭に手を乗せた
「心配してくれてありがとう。眠れてない時は、ちゃんと栄養多めに取ってるし、少し位無理しても大丈夫な様に、鍛えてるから大丈夫だよ。結君は?ちゃんと眠れてたかい?」
「はい。毎日、叶さんが一緒に寝てくれて…毎日色んな所に連れてってもらって、夜も眠れてます」
「へぇ~?毎日色んな所に…」
九条先生が、如月さんの方を見ると
「この前は、伊織が結君の添い寝してたぞ」
「……ほう?ちゃんと成長してるなんて、偉いじゃないか」
「だろ?今度頭撫でてやれよ」
「ははっ…誰かに頭撫でられた事なんてなさそうだな」
え?
「親より佐久間に撫でてもらってたんじゃないか?」
「透哉…気持ち悪い想像させんなよ」
「加賀美さん…家族と一緒に暮らしてなかったんですか?」
皆が一斉にこっちを見る
あ...
なんか、聞いちゃダメな事だったんだ
「...ごめんなさい。余計な事聞きました」
「結君。余計な事じゃないから、謝らなくて大丈夫ですよ。あと、家族と一緒には暮らしてたはずなので、その心配もしなくていいですよ」
家族と一緒に居たのに...?
「はい……」
「朝比奈さ~ん。お入り下さい」
「はい!結、行こ」
「はい」
「九条、終わったら連絡する」
「ああ」
診察室に入ると、久しぶりに見た皇先生は、やっぱり凄く綺麗な金髪で、何色か分からない綺麗な瞳の色だった
「こんにちは、結君。元気にしてたかな?」
「こんにちは、皇先生。元気です」
「良かった。薬はちゃんと飲めてたかな?」
「はい」
やっぱり
皇先生の声落ち着く...
「薬飲んでから、困った事はあるかい?」
「えっと…朝、ちょっと起きるのが遅くなっちゃいました」
「そっか。日中も眠くなったり、体がだるくなったりするかい?」
「いえ。叶さんが色んな所に連れてってくれて、遊んでます」
「へぇ。色んな所かぁ。それは羨ましいな。どんなとこ行ったのか、先生に教えてくれるかい?」
「えっと…」
皇先生の診察は、普通の先生の診察と違って、楽しくお喋りして終わり
楽しいけど、これで治るのかな
「じゃあ、もうちょっと今のままの薬で、また2週間位で来てもらえるかな?日にちは、後で調整するから」
「はい…」
叶さんを見ると
「分かりました」
叶さん…敬語使えたんだ...
「他に何か聞きたい事とか、言っておきたい事あるかい?」
「えっと…この病気を早く治す為に、何か出来る事ないですか?」
「出来る事かぁ。そうだな…結君の周りには、こうやって心配してくれる人達が居るだろ?」
「はい」
「だから、結君が怖かったり、寂しかったり、悲しかったりした時は、周りの人に言う様にしてみようね。自分ではそれ程でもないと思ってる事でも、ちょっと不安になったりすると、発作を起こしやすくなったりするから、そういう時に言ってくれると、周りの人達も対処しやすいし、どんな時に気を付けたらいいのか、分かってくるからね」
なるほど...
「分かりました」
「あと…夢に見た事って、けっこうヒントになる事もあるから、もしも起きた時に覚えてたら、誰かに話すか書き残しておくと、何か分かってくる事もあるかもしれないね」
不安な時は言っておく
夢は叶さんに伝える
「分かりました。やってみます!」
「うん。でも、頑張り過ぎは良くないから、リラックスも大事」
「……はい」
早く治したいけど…
頑張り過ぎちゃダメなんだ
如月さんは、皇先生と話があるとの事で、叶さんとロビーの椅子で待つ
結局…これといった方法はないんだなぁ
「はぁ…」
「早く治す方法ないのかぁ」
「えっ?!…叶さん?」
「今の結の気持ち。合ってた?」
「ふっ…合ってます」
「落ち込むなよ。幸い、ずっと苦しいとかじゃないんだからさ」
「はい…」
俺は、どれだけかかってもしょうがないんだけど…
「叶さん…俺が今ここに居る理由、知ってますか?」
「父親に、伊織のとこ行けって言われてたんだろ?」
「はい……でも、おかしな話なんです。父さんの凄く大切な人なのに、父さん…俺が知る限り、1度も会いに行かないし、加賀美さんが俺の家に来た事もないんです」
「…そっか」
「父さん…少し変わってて…時々なんだけど、人が死ぬのが分かってたみたいなんです」
「へぇ~…それはきっと大変だね?」
叶さんが、少し真面目な顔で言った
「…父さんにちゃんと言われた事はないんです。けど…たまに父さん1人で泣いてる事あって…その数日後とか…数週間後とか…知ってる人が死ぬんです。どうやって知るのかは分かりませんけど…死んだ後じゃなく、死ぬ少し前に泣いてるんです。だから多分……自分より加賀美さんの方が長生きするって、何となく分かってたんじゃないかと思います」
「そっか。じゃあ…結と早くに離れなきゃなんないの、知ってたかもしれないんだ」
「はい……」
でも、加賀美さんは…
「…俺、こんなにお世話になってて、加賀美さんと父さんが、どんな関係なのか知らないんです」
「結…」
「父さんも言わなかったし、何か事情があるんだと思います。でも…こんなに迷惑かけちゃっていいとは思えないです。叶さん…加賀美さんは、父さんの知り合いで大切な人であって、俺とは無関係なんです。こんなに…色々して貰って…いいのか分からないんです」
「結…」
叶さんが、ぎゅっと抱き締めてきた
「叶さん?」
「早速、不安な事言って偉い」
「あ…」
皇先生が言ってた…
「結の父親と伊織との間の、面倒な事は知らない。でも、結の父親が行けって言ったんだろ?結の父親は、結の事大好きだったんだろ?」
「はい」
「じゃあ大丈夫だ。結が、悲しむ結果になる奴のとこになんか、行かせる訳ないだろ?そりゃ...ずっと一緒に居なかったから、少し時間はかかるかもしれないけど…きっと結が喜ぶ結果になるよ。だからさ…伊織の事は信じられなくても、父親の事信じろよ。きっと大丈夫だって」
父さんを…
「叶さん…ありがとうございます。そうですね?父さんの言ってる事は、よく分からない事もありましたけど、いつも俺を喜ばせてくれたから...もう少し、加賀美さんの好意に甘えながら、考えてみます」
「考えなくたっていいんだ。何も考えず、甘えとけ。あと、俺にはもっと甘えろ」
「ふっ…分かりました」
優しい叶さん…
時々…何もかも忘れてしまえればいいのにって
思う
けど…俺の為に頑張ってくれてる人達が居るんだから
俺も頑張らなきゃ
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