第四章 手がかりは

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「なんだよ、まだ返事してねーし」 「いーじゃん、いーじゃん。あたしと春一の仲でしょっ」  小さい時は春一の家の事情で一緒に過ごす時間が多かった。お互いの家に遊びに行くのだってしょっちゅうだった。その時の感覚のままズカズカと部屋に入り込む。 「お前……散々人の事嫌がってたクセに態度変わりすぎだろ。まぁ、いいけど」  呆れながらも、春一は座り込みあぐらをかく。 「春一の連絡先教えて。SNSやってる? なきゃ番号とかメッセージでもいいし」  あたしはスマホの自分のメッセージ画面を開いて見せながら、春一の前に座った。一瞬考えるような素振りを見せたけれど、春一はポケットに入れていたスマホを取り出してあたしに差し出してきた。 「情報発信したりするやつはやってない。とりあえずメッセージ交換だけ」  交換を済ませると、キョロキョロと部屋の中を見回した。 「何もないねー、春一の部屋」 「そりゃそうだろ。来たばっかだしパソコンとちょっとの着替えしか持ってきてねーし」  春一が無造作にスマホをテーブルの上に置くと、あたしはそこに小説があるのを見つける。 「……春一、見かけによらず本なんて読むんだねぇ」 「……なんだよ、見かけによらずって」  少し不機嫌になる春一の横を膝で歩き、小説を手にした。パラパラっと眺めた後、すぐにあたしは本をパタンっと閉じて元に戻した。 「あたし文字だけって無理! 眠くなっちゃうもん。絵があればまだいーのに」  文字の配列にうんざりした顔をしてから、また春一の前に座り直すと、目の前の春一は不貞腐れたように目を細めていた。 「……お前……人の小説にケチ付けんなよ」  怒っているようにも見えるし、悲しんでいるようにも見える。そして、鋭い目であたしを捉えるから、謝るしかない。 「……ごめん」  消えそうなくらいに小さい声しか出なくて、春一はハッとして、慌て出した。 「あ! わりぃ。小説は好き嫌いあるよなっ。なずな、漫画の方が好きだったしな」  まぁ、本なんて図書室からもほとんど借りたことがなかったし、家では春一の言うように漫画ばかり読んでいた。春一があたしに貸してくれたのがきっかけだった気もするけど。そういえば、春一は確かに読書好きな大人しめな男の子だったな。忘れていたけど、よくノートに物語を書いて見せてくれていた気がする。本は、今でも好きなのかな。 「……もしかして、春一の仕事って……」 「え……?」 「小説書いてるの? もしくは……出版関係の仕事?」 「あー……えーっと」 「で、この“ハルイチ”って人の大ファンなんでしょ?! ここにある小説全部この人のだし。春一が小説家ねぇ……」  ふ~ん。と、あたしは自分の勘の良さに惚れ惚れする。だけど、春一がきちんと自分の夢を持っていることに、なんだか羨ましくも思った。 「え……なずな、もしかして“ハルイチ”のこと知らない?」 「……え? この小説書いた人のこと?」 「うん」 「あー……ごめん。知らない」 「……まじか、そっか」  なんだか不満そうに俯くから不思議に思うけど、次の瞬間、顔を上げた春一が話題を変えてくる。 「それよりさ、なずな、アゲハさんが光夜の電話番号知ってるとか言ってなかった?」  春一は話を戻して、なずなに聞いた。
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