第三章 春一の事情

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 三階からは何やら美味しそうな匂いが降りてくる。二階に上がると、ちょうど青ちゃんが帰ってきたらしく、大量の荷物をリビングに置いて三階へ向かっていた。 「おお⁉︎ シュン~、お前料理出来んのかぁ」  感動した声が響いてくるから足を速める。 「だてに五年間一人暮らししてないっすから」  パスタ用のトングを青ちゃんに向けながら、春一はポーズを決めていた。 「あ、なずなそれ出来たからテーブル持ってって」  すかさず、春一はキッチンにたどり着いたあたしに指示を出す。テーブルに並べられた彩り豊かな料理たちに目を奪われた。 「すっごーい! これほんとに春一が作ったの?」 「そーだよ。一応飯屋でバイトしてたこともあるし」  手際よくパスタをお皿に盛りながら、春一はお皿を差し出してくる。香ばしいマーメイドオリジナルのオイルの香りと、トマトのソースが思わずヨダレを誘う。 「お前、ヨダレ垂らすなよ」  春一の言葉にハッとなり、慌てて口元を拭いた。料理をテーブルへと運日終わって、三人で食べようとした瞬間、「ただいまぁー!」と玄関から声が聞こえてきた。 「あれ? この声、お姉ちゃん?」  あたしはすぐに椅子から立ち上がり、急いで二階に降りていく。 「あ、なずな。ただいま! いやぁ、疲れた疲れた……ん? なんかいい匂い」  重たそうなカバンとカメラをリビングに置くと、パスタの香りに姉は敏感に反応した。 「あ、今ね春一がパスタ作ってくれたの」 「まじっ? あたし朝から何も食べてなくてさぁ」  姉は直ぐ様三階へと上がって行ってしまった。無造作に置かれた姉のカバンを部屋の端に寄せてあげた。すると、小さなポケットから一枚の紙がヒラリと落ちる。そっと拾い上げて見ると、書かれていた名前に目を奪われた。
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