第三章 春一の事情

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「あ! なずな! お前俺のめちゃうまパスタ早食いすんなよなー、ちゃんと味わえ! お前が食べたいって言うからわざわざマーメイドのオイル買いに……」 「ごめん、春一! それより、これ!」  春一が怒っているのも遮って、卒業アルバムを目の前に突き出した。 「……なんだよ」 「いたの! 光夜くん!」  笑顔で春一の横をすり抜け、一階に行くために階段を降り始める。 「はぁ? だーかーら、光夜だっつってんだろ?」  春一も一緒になってお店に降りてきた。店の中に視線を向けると、所狭しと品数が増えている店内に驚く。 「……素敵! どーしたのこれ、青ちゃん」  木で作られた彫刻や棚が置かれているのを見て興奮する。今までも何度もこういうことはあったけれど、毎回ワクワクするのは、青ちゃんのアイディアがいつも斬新で美しいからだ。 「知り合いから安く譲ってもらった。で、これに俺なりのアレンジを加えようと思ってね」  先ほどのお洒落な服からはもう着替えていて、履き古したデニムにTシャツ姿の青ちゃんが気合十分に腕組みをする。 「あと、オルゴールも完成させようと思っていろいろ調達してきたんだけど……なぁ?」 「あ! あのね、あのオルゴールを買った人が誰か分かったの! 事情を説明すれば返してくれるかも」 「え、分かったのか?」 「けどさぁ、プレゼント用で買っていったんだろ? もう他の誰かの手に渡ってんじゃねーの?」  後ろの小窓から春一がサラリと期待を裏切るようなことを言う。 「……わかんないじゃん! もしかしたら、まだ持ってるかもしれないし」 「そんなに大事なもんなの?」  呆れたように言ってくる春一には、大事なものを売ってしまった悲しみは分からない。見つかった嬉しさに湧き上がってくる思いで声が震える。
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