第四章 手がかりは

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「あ! そうそう。お姉ちゃんのカバンから落ちた紙に、光夜くんの名前と番号が書いてあったの。本人の物かは分からないけど……」  姉はSNSが苦手で、基本仕事関係の方とは直接電話かメッセージのやりとりのみ。「アカウントとか作るの面倒くさいし無理」って言って、たまにスマホすら家に忘れて仕事に行くこともあるから、逆に連絡取れなくてこっちが面倒くさい時がある。  仕事関係の人に青ちゃんが対応に追われていたりして、腕は確かだから細かいことやってくれるマネージャーでもつけたら良いのにと、ぼやいている時がある。 「光夜……ってさ、将来の夢“カメラマン”じゃなかった?」  記憶を探るように頭に手を当てて、春一はあたしを見た。 「えー、分かんないよ、光夜くんの夢とか……」  急に何を言い出すんだと思ったけど、次の瞬間、閃いた様に明るい表情で互いに指を差しながら「アルバム!」と叫んだ。  すぐにアルバムを持って春一の部屋に戻ってきた。卒業アルバムと一緒になっていた文集を開くと、将来の夢が書いてあるページを探す。 「……あ! 春一の夢、小説家だって! この頃からなんだ」 「まぁな、なずなは?」 「あたし? ……なんだっけ?」 「忘れてんのかよ……」  ため息を吐き出して呆れながらも、春一はあたしの名前を探している。 「あ、モデルだって。無理じゃん」 「ちょっ……ひどーいっ! こんなのこの時だけだよ。お姉ちゃんの真似したの!」  すっかり忘れていた。将来とか、夢とか、あたしにはあの頃が楽しくて、毎日が充実していて、まだまだ先のことなんて考えたくなかった。目の前のことで精一杯なのは、あの頃からちっとも変わっていないかもしれない。 「光夜、光夜っと……あ!」  止まった指の先を見ると、そこには、山内光夜「将来の夢“カメラマン”」と書かれている。 「やっぱりな!」  勝ち誇ったようにあたしに向かって不適の笑みを浮かべてくる春一。だけど、これで信憑性は深まった。 「じゃあ、お姉ちゃんのカバンから出てきた紙は、光夜くんの可能性大って事よね?」 「そーだな」  少し考え込んでから、スマホに姉の番号を表示した。 「とりあえず、お姉ちゃんに聞いてみる。それが一番早いよね。出る可能性は極めて低いけど」  通話ボタンを押して、姉が出ることを願って待つ。  呼び出しコールが鳴る間に、開いていたページの中に千冬の名前を発見した。将来の夢は、“お嫁さん”だった。千冬らしいなと思ってしまう。相変わらずスマホの向こうは呼び出し音が鳴り続けていて、全く応答する気配がない。 「ダメだ、出ないよ。仕事中かも。たぶん夜か、明日の朝には帰って来ると思うから、その時まで待とうか」 「そーだな。焦ってもしゃーないし」  そう言ってゴロンと春一は畳の床に寝転がった。
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