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バタンッ──ドアが閉まる音に驚いて、振り返った。春一がちょうど部屋から出てきてこちらに向かって来ていた。
「腹減ったな~。おっ! おにぎりじゃーん。食っていいの?」
テーブルの上に置かれたおにぎりに気が付いて、春一はあたしの隣に座って手を伸ばそうとして、動きを止めた。
「あれ? ……もしかして、泣いてんの?」
伸ばしていた手を引っ込めると、春一はあたしの顔を見てびっくりしている。言われて気がついた。気が付かないうちに頬が濡れていることに。
「……千冬……写真、光夜くんの……」
「んん?」
何が言いたいのか分からずに首を傾げた春一は、あたしの手元の写真に気がつく。
「……これ」
「ねぇ、春一! 千冬、光夜くんの近くにいるのかも!」
泣いてしまっていたと気がついたら、涙が次から次へと止まらなくなる。驚きと嬉しさと、戸惑いで、なんだか頭の中が混乱してしまっている。
そっと、包み込む様に撫でられた頭。春一が何も言わずにそばにいてくれることが、何より安心する。
あの頃小さかった手は、今じゃあたしの頭をすっぽりと包み込むくらいに大きくて温かい。ずっと知らぬ間に気を張っていたのかもしれない。
千冬のことも、両親のことも。
あたしの悩みなんて、きっとちっぽけで、他人から見たらどうってことないことなのかもしれない。
円満とはいえ、両親が離れ離れになってしまうことは、あたしは本当に寂しくて、耐えられなかった。
春一がいつも優しいのは、あの頃から変わらない。だからつい、春一の胸に寄りかかって、今まで我慢していた分の涙を流してしまった。
「春一って安心するなぁ。やっぱり小さい頃からずっと一緒にいたからかな」
落ち着いてからそっと呟くと、春一はあたしの頭をガシガシと乱暴に撫でてくる。
「なずなにはいつも守られてばっかだったからな」
「えー、春一ちっちゃい頃守ってくれたよ」
「……本当に小さい時だけだろ? あとは俺、なずなや青さんがいなかったら、今こうしていられなかったと思うし」
なんだか、泣きそうに弱々しい声が頭の上に落ちてきて、あたしはようやく春一から離れて表情を伺った。
「……春一?」
「なんかしんみりしたなっ! とりあえず明日だろ、光夜に会えるの。今度は俺が力になってやるからさ。どんどん頼れよ!」
春一がニッと笑うから、あたしは撫でられてもしゃくしゃになった髪を手櫛で整えながら、「うん!」と笑って頷いた。
二人でテレビを見ながら愛情たっぷりの歪なおにぎりを食べて、今日は早めに寝ることにした。
光夜くんに会えたら、木箱と、千冬の事を聞くんだ。
なんだか遠足前の子供みたいに、ドキドキして寝付けなかった。
明日が待ち遠しいよ。
千冬、千冬が来てくれるのが待ちきれなくて、あたしから千冬に会いに行っちゃうかもしれない。光夜くんとまた会えたら、すぐに千冬にも会えそうな気がしているの。
だから、待てずに会いにいってしまったら、その時はどうか、許してね。
オルゴールの中身は、青ちゃんちに遊びに来てくれた時にでも入れればいいし、もし会えるなら、またあの頃みたいに一緒に遊びたい。
千冬、きっとあの写真の女の人が千冬なんだとしたら、きっとあの頃のまま、変わらずに優しい千冬でいてほしい。
ベットの中でいろんなことを考えすぎて、眠れぬ夜は更けてゆく。それでも、いつの間にか眠りについたあたしは千冬に会えた夢を見るほどに浮かれていた。
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