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第六章 真実は……
徐々に大きくなっていくスマホの目覚まし音に、嫌でも重たい瞼をこじ開けてベッドから体を起こした。
昨日、わざとスマホをベットから離れた棚の上に置いていたから、そこまで行かないとあの音は止まらない。ふらふらと寝ぼけ眼を擦りながら歩いていく。
「眠いーっ!!」
ボーッとする頭を奮い起こすように、あたしは叫んだ。
とりあえず顔を洗うためにバスルームへ向かう。春一はまだ寝ているだろう。隣の部屋からは物音一つしない。階段を上がると、三階のベランダのドアが開いていて、爽やかな朝の微風が入り込んできていた。不思議に思って外を覗いて見る。
すると、カメラを構えて遠くの景色を撮る姉の姿が目に入った。広めのベランダは、大人二人が余裕で横に寝転がれるくらいある。坂の上の立地には建物はほとんど眼下にしかなくて、街並みの遠くには海が見えた。
「おはよう、お姉ちゃん!」
声をかけると、気が付いた姉が風で靡く長い髪を耳にかけながらこちらに微笑んでくれた。
「おはよう。起きれたみたいね。急いで準備してね」
そう言いながら、またレンズを覗き込む。気持ちのいい空気をそっと吸い込んだ後で、すぐに顔を洗いに向かった。歯を磨き、軽くメイクをして、髪も纏めて結えると、春一の部屋に向かった。
ドアを強めにノックしても返事がないから、容赦なくドアを開けて勝手に入り込む。窓を開けて寝ていたのかと、揺れるカーテンを見て思った。朝とはいえ外は温度も徐々に上がってきているし、この風は眠りには心地よさそうだ。とは言え、そろそろ起きて準備してもらわないと。
すやすやと気持ち良さそうに眠る春一の横に立ち、スゥッと息を吸い込む。
「朝ですよー! 春一! 起きてー!!」
体を揺さぶりながら、懸命に呼び掛ける。春一は眉間にシワを寄せて、ゆっくり目を開けた。
「おっ……はよー!!」
目の前にいきなり現れたあたしの顔にびっくりしたのか、春一が跳び跳ねるように起き上がった。
「うぉっ!! びっくりさせんじゃねぇ!」
心臓に手を当てながら、春一はため息をついてベッドに座り込み、気持ちを落ち着かせて顔を上げるとあたしをジッと見る。
「お前、すっぴんでもあんま変わんね―な」
目線を合わせて、春一はあたしのオデコをピンッと突っついた。
「これでもメイクしてますからっ!」
「あ、まじ?」
「ははは」と笑いながら春一はシャワーを浴びに行ってしまった。むぅっと頬を膨らませて怒ろうにも、もう春一は行ってしまったし、あたしも急がないと! と、自分の部屋に戻った。
出発の準備を整え、姉の車で撮影現場まで向かうことになった。
「ついに光夜くんに会えるね!」
気持ちが高揚してきて、隣に座るまだ眠気の取れていない春一に話しかけた。
「俺夜型だからさ……いつもならこの時間くらいから寝るからさぁ。めちゃくちゃ眠い……」
ふわぁ~っと大きなアクビを連発して、春一は後ろの席の背もたれいっぱいにうなだれた。
「こっから一時間ちょいかかるから、寝てていいわよ」
クスッと笑うと、姉はバックミラー越しにこちらを見て言った。
春一と同じく眠くて目がきちんと開いていなかったあたしは、嬉しいその一言にすぐに意識が遠退いていくのを感じる。
心地良い車の振動に揺られながら、瞼が降りていく。次の瞬間、エンジン音が消えるのと同時に目を覚ました。
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