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第一章 探し物はなんですか
見上げた空は雲一つない青空。太陽が近くて、手を伸ばせば届いてしまうんじゃないかと思うほどに近い。世界はなんでこんなに広いんだろうってばかり、思っていた。
母校の小学校のすぐ裏、急な坂道を登って行く。桜の季節はとっくに終わってしまったけれど、新緑が風に吹かれるたびに揺れては青い香りを運んでくる。藤の花が山の緑に紫を添えているのを見るのが、あたしは好きだ。
階段を登り切ると、振り返った街並みが鮮やかに目に飛び込んでくる。ずっとこの街に居るはずなんだけど、春夏秋冬、朝昼晩、季節が、時間が変わるたびに、見える景色がどれも同じじゃなくて、あたしはこの景色が大好きだ。
煉瓦作りの隠れ家みたいなお店が見えてくる。小さな雑貨屋さんは、姉の旦那さんが経営している。
主にネットを使ってやり取りが行われているから、実際ここの店まで足を運ぶ人は、相当なマニアだ。いつも通り我が家のように入り口から店の中に入って行く。
「青ちゃんたっだいまー!」
買い出しで頼まれていたものが入っている袋を店の奥に置き、カウンター横に立つ。すると、いつも置いていたはずのものがなくなっていることに気がついた。
「あれ!?」
「おう、なずな、帰ったか……どうした?」
きっと寝起きだろう。奥の部屋からやってきて、機嫌が悪そうに伸びたパーマヘアをガシガシと掻きながら、のっそりと青ちゃんが近づいてきた。
「ない……」
手に持っているのは、ずっと大切にしていた木の箱。フタを開けて中が見えるように青ちゃんに向けた。
「はぁ? ないって何が? 泥棒か?」
小上がりの部屋から降りて、置いてあったサンダルを引っかけて近づいてくる。あたしの手の上の箱をヒョイッと取り上げると、中を覗き込むように見てから「あー……」と小さく呟いた。
「……ないな」
確かめた青ちゃんからすかさず箱を取り返すと、また中を覗き込みやっぱりないことに絶望して店内を探し回る。
「どこにいったんだろぉ~!」
半ベソ状態で下を向いて歩いていると、入り口のベルがシャランシャランと綺麗な音色を奏でた。お客さんが来たことを告げるから、慌てて顔を上げると、入り口に一人の若い男の人が立っていた。
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