第一章 探し物はなんですか

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「……あ、いらっしゃいませ!」  慌てて笑顔を作って頭を下げる。一旦手にしていた箱をレジの棚に置きつつ、入ってきた男の人を伺う。  何かを探しているような、そんな雰囲気を漂わせているから、ゆっくり近づいていって声をかけてみた。 「……何か、お探しですか?」 「あ、えっと、ちょっと……」  男は困ったようにそれだけ言うと、あたしを避けて店内をキョロキョロと見始めた。  見た目の印象だと、たぶんあたしと同じか上くらいの年齢に感じる。太りすぎないがっしりめの体格に、短い短髪の似合う整った顔立ち。着ている物もポロシャツにデニムと、至って爽やか。なのに、なんだろう。何だか挙動不審に見えて、落ち着きがない気がする。  店全体が見渡せるカウンターに戻り、男を監視することにした。  やがて、何度も商品を手にとっては戻しを繰り返したのち、男はレジカウンターへとやってきた。 「あの、これ、プレゼント用に……できますか?」  照れながらも、男は早くと言わんばかりにオルゴールを突き出した。 「あ、はいっ! かしこまりました」  とっさに軽く身構えてしまう。もはや強盗目的なんじゃないかとか、あらぬ方向に思考が働いてしまって、接客も慎重になってしまう。男が差し出してきたのは、木製のオルゴール。オルゴールの値段をプライス表で確認して、レジに打ち込んだ。  急いでいるのか、ただ照れているのか分からないけれど、男は落ち着かずにラッピングをしている最中もキョロキョロとしていた。一刻も早くこの人を帰したい気持ちでラッピングをする手を速めた。  お会計を終えて「ありがとうございました」と商品を手渡した瞬間、男が初めて真っ直ぐにあたしの目を見つめて、聞いてきた。 「……あの、新堂(しんどう)……なずなさんですよね?」 「え?」  急に聞かれたから、反射的に「……はい」と答えてしまう。すると、男は今までの挙動不審が嘘みたいに、安心し切った表情で柔らかく微笑んだ。 「良かった、ありがとう」  そう言うと、店を出て行く。入り口ドアのベルが鳴り響いた。
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