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「何? 今のなずなの知り合い?」
居なくなったと思っていたら、急にカウンターの後ろの小窓がガラリと開くから驚いた。
「青ちゃん!? 急にびっくりするから!」
「やめてよ」とため息を吐くけど、悪びれもなく青ちゃんは笑っている。
「知らない人のはずだけど……青ちゃん知ってる?」
「何で俺に聞く? 知らん」
冷たく言い放った青ちゃんは小窓をカラカラと閉めて二階に上がって行ってしまった。
「……う~ん、ダメだ……ぜんっぜん思い出せない」
記憶を辿って数分悩んだ後に、もう一度ため息を吐き出して考えるのを諦めた。
レジの上の木箱に視線が止まり、探し物があったことを思い出してまた店内を見回す。
探している物、それは、大事な木箱のオルゴール。表面に繊細な花模様が彫り込まれている木箱の中にしまっておいたもの。青ちゃんに教わりながら、親友千冬の為に一生懸命作った、世界に一つだけのビーズのネックレス。
あれ? ちょっと待ってよ。
あたしの大事な木箱のオルゴールは、二つある。繊細な花模様が彫り込まれた木製のオルゴールと、同じように繊細な星が彫り込まれた木製のオルゴール。
確か、青ちゃんがもう少し掘り込みたいからと、この前、星のオルゴールに全部中身を移した気がする。うん。思い出して来た。
そして……星のオルゴールは一旦商品棚横に置いていたはず。
レジカウンターに視線を止めた。さっきの怪しいお客さんとラッピングしていた自分の姿を思い出す。そして、包んでいた物をもう一度よーく思い出してみた。
「あ゛ぁ!!」
……なんてこと。あたしとしたことが、あの挙動不審男にばっかり目がいって、商品をちゃんと見てなかった!! ただのオルゴールだとばかり思ってラッピングしていた。
頭を抱え込んで、しゃがみこむ。
あれはすっごくすっごく、すっごーっく大事な物なのに!!
あたしのバカ、バカバカバカァ……
そりゃあ、守られる約束じゃないかもしれないけど……あれから十年。
もうすぐ、約束の日が来るよ。それなのに……ごめん、千冬。 千冬と約束して大切に大事にしてきたものを、あんな挙動不審男に売ってしまった……しかも、あたしの思い出までも詰め込んで。
何してんだ、あたし。
ガックリと肩を落とすとカウンターの椅子に落ちるように座り込み、頬杖をついた。
「……でもあの人、何であたしの事知ってたんだろう?」
頭の中で過去に会ったことがあるか思い出そうとするけど、全く思い出せない。考えすぎてしまって、もう頭が働かない。窓からの日差しがぽかぽかと気持ちがよくて、腕を枕にして目を閉じてしまった。
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