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「青さーん、こいつサボってますけどぉ?」
すぐ横で大きな呆れ声が聞こえてきて、ハッと目を覚ました。
「ヤバッ! 思考停止して寝てた!」
「なんっだよ、それ。ウケんなぁ」
クックッと笑いを堪えるように腹を抱える男がいることに気が付いて、目を見開いた。
「しゅ……しゅんいち?!」
思わず椅子から滑り落ちそうになってしまうから、慌てて体勢を立て直す。
「かっわんねーなぁ。なずな!」
目の前で声を上げて笑っているのは、しばらく東京に出ていて会うのも五年ぶりだけど、どこからどう見ても幼なじみの春一だ。
「春一……おっきくなったねぇ」
「お前は親戚のおばちゃんか! つーか、なずなはチビのまんまだな」
あたしの感慨深い言葉に、春一は細い目をして上からあたしの頭を押さえつけた。相変わらずあたしをなんだと思っているのか、扱いが雑すぎて嫌になる。
騒いでいると、二階から青ちゃんが下りて来た。
「おぉ~! シュン~。元気にしてたか?」
「元気っすよ~!」
顔を見合わせたかと思えば、二人はガッシリと抱き合い、久しぶりの再会の余韻に浸っている。そんな二人をしばし眺めてから、水を差すようにとりあえず聞く。
「ねぇ。何で帰って来たの?」
明らかにピキンッと春一の頭上に何かが走ったようだった。案の定、「帰って来て悪いか?」と睨む顔で返ってくる。
あたしと春一は幼稚園からの腐れ縁。小さい頃は物静かでよく懐いてついて来ていたのに、歳を重ねる度にああ言えばこう言うで、なかなか分かり合えることは難しくなった。
「大人になるって、寂しいよね……」
遠い目をして呟いたのも無視される。春一と青ちゃんは男二人で何やら盛り上がっている。
本日何度目かのため息をついて、窓の外を眺めた。
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