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すっきりとした青に一筋の白線がくっきりと見える。いい天気。世の中はもうすぐ夏休みが始まるっていうのに、あたしは大事な物を売ってしまい絶望の淵だ。
「じゃあ今日から宜しくお願いします! 青さん」
「おぅ! 部屋空いてるから使え使え!」
「ありがとうございます!」
隣でやり取りをする二人の会話がしっかりと聞こえてきた。
「ちょっと! 今、何て?」
二階に上がって行こうとする春一に、引き留めるように「待てぃ」と手を伸ばした。
「あ、今日から俺、ここに住まわしてもらうから!」
ハートでも付いていそうな春一の言葉に寒気がした。鼻歌まじりで階段を上がって行く姿に呆然と立ち尽くす。
大事な物を売ってしまい、挙動不審男には名前を知られていて、あげく、今日から春一と一つ屋根の下?!
あり得ない!! 今日は何? 災日? 厄日?
「青ちゃん無理! あたし春一と同居なんてあり得ない!」
二階に向かって叫ぶと、階段から顔だけ出して、満面の笑みで青ちゃんが言った。
「じゃあなずなが出てって~。ここ、俺んちだから」
ごもっとも~!!
お金はここのバイト代だけじゃ、他にアパート借りて家賃払うのは無理だし、そもそもあたしはここにいたいし。青ちゃんに従うしかない。
二階から聞こえてくる二人のはしゃぐ声の方に半ベソで睨みつつ、椅子に座り直した。
「あ、なずなぁ~!」
「何っ?!」
やけになって叫ぶと、春一は苦笑いした顔を出す。
「さっき来た男、光夜じゃねー? 山内光夜。小学校ん時いたじゃん」
山内光夜? さっきの挙動不審男の顔を思い出す。
「似てるんだよなー。急いでたみたいだから声かけなかったけど」
そう言うと、春一はまた部屋に戻っていった。
千冬。あたし、この時は何にも知らなかったし、気が付かなかった。
これが、千冬に出逢う、きっかけになったことを。
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