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悩む男
薄暗い部屋の中、向こうから緑郎がドタドタと走ってきた。
「ジーさん、良いところにいた。大変だよ!」
「ん? 緑郎、一体何が大変なんだ?」
「僕の首が…」
「首?」
「首が伸びない」
「えっ、そんな馬鹿な!」
「本当だってば。朝起きて、外を見ようと思って首を伸ばそうとしたら全然伸びないんだ。こんなことは生まれて初めてだよ」
「おい、緑郎、ちょっとかがんでみろ」
ジーさんはかがんだ緑郎の首を持ち、上に伸ばそうと力を込めた。
「イタタタタ、ジーさん、痛いよ!」
「本当だな。伸びないぞ」
「だから、そう言っているじゃないか」
「まあ、気にするな。寝違えただけだろ。夜中に首が勝手に伸びてウロチョロしたとき軽く捻ったんじゃないか?」
「いやあ、それは無いよ。僕って寝相は良いんだ」
「う〜ん…。それはそうと、今日のアルバイトはどうするんだ。首が伸びなければ仕事ができないぞ」
ろくろ首の緑郎と子なき爺のジーさんはお化け屋敷で仲良くアルバイトをしていた。
「どうしよう。首の伸びないろくろ首は存在価値ゼロだよ」
「確かにな…」
「最近、僕は人間たちに全く驚かれないし、このままじゃクビになっちゃう」
「う〜ん」
ジーさんは親友の緑郎のため、真剣に解決策を考え始めた。ポクポクポク…チーン。ジーさんは何かひらめいた。
「イップスだな」
「イップス?」
「心の葛藤が筋肉や神経細胞にまで影響を及ぼす心理的症状だ。例えば、プロ野球のピッチャーがデッドボールを与えた後、全然ストライクが入らなくなったりするんだ」
「へぇ、ジーさんは物知りだね。じゃあ、イップスはどうすれば治るの?」
「自信を持つことだ。お前の場合は人間たちが驚く姿を見れば自然と治るさ」
「なるほど。だけど、それが難しいんだよ」
「俺に任せろ。良い方法がある…」
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