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伸びない男
緑郎は電信柱の影に潜んでいた。なんて気分が良いんだ。心の底から湧き上がる高揚感。まさしく僕が求めていたものはこれだ。
人間たちの驚く姿に快感を覚えた緑郎はアルバイトを辞めた後も妖怪全裸男として夜な夜な街に繰り出していた。首は伸ばさず、鼻の下を伸ばしながら。
そのとき、緑郎は暗闇の中の誰かに肩をトントンと叩かれた。
「緑郎!」
「ん?」
「お前という奴は…」
「父さん!」
「妖怪の恥さらしめ! しかも、お前はろくろ首としての本能も忘れてしまったらしいな」
「違うんだ、父さん。僕はイップスで人間を驚かせないと首が伸びないんだ」
「チップスだか、トップスだか、ポップスだか、そんなこと知るか!」
「違うよ。イップスだよ」
「首が伸びないなら俺が伸ばしてやる。こっち来い!」
緑郎は父親に引きづられて橋の上にやって来た。そこには申し訳なさそうにしているジーさんが待っていた。
「緑郎…」
「ジーさん、なんでここに?」
「露出狂になってしまったお前のことが妖怪界隈でちょっと大問題になってな。まあ、なんだ、俺も少し反省しているところだ」
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