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贈り物
配達のお兄さんから荷物を受け取ってサインを書いて挨拶もそこそこに、カセットテーププレーヤーまで走っていく。
「冨美ちゃん、やっぱり未来人だったの?それとも居るの?」
未来人だの幽霊だのと気にもしないことが気になり出したのは、宛名が冨美ちゃんの娘さんの宛名だったから。
*
お久しぶりです梅さん。覚えていますか?林田梨央です。突然のお手紙と贈り物驚かれたでしょう。母が生前、毎日のようにカセットテープに話しかけていたものです。コロナにかかる前に母に聞いたら、交換テープなんだって少女のように笑ってました。よかったら聴いてくれると母も喜びます。
*
キュルキュルキュルキュル
カセットテープが伸ばされていく。一番長いテープにしたのは話したりなかったからなの?
「わたしに、くよくよするなって言ってるのかしら?」
きっとそうだわ。おっとりしている冨美ちゃんの本気で怒った顔は怖いし、誰よりも友達思いだったものね。それに、ずっと交換テープを続けていてくれたことに、諦めかけていた冷たい心も考えも、あったかくなって。
カセットテープになにが吹き込まれているのかわくわくに変えてくれた。
『梅ちゃんの人生なんて長くのびているかもしれないじゃない?』
再生してすぐに聞こえた大人びた冨美ちゃんの声。
「そうね。そうよね」
『あたしは楽しみにしてるのよ。みんなどんな風に還暦を迎えたのかって、意地悪かしら?』
冨美ちゃんの声と話す楽しみが増えた。そして、山ほどある録音されていないカセットテープには、わたしの声を吹き込めと冨美ちゃんの字で書かれていた。
*
梅ちゃん、どちらが先に逝くなんて誰にもわからない。けどね、あたしが生き続けても交換テープを続けていこうと思うの。
立場が逆だったら、梅ちゃんの声を吹き込み続けてね。そして、生涯を全うした時、棺の中に録音したカットテープをいれてください。
あの世で昔みたいに聴こうね?約束だよ。
*
「100歳ぶんまで買ってあるなんて、冨美ちゃんらしい」
もう、交換する相手はいないけれど、この贈られたカセットテープがわたしの生きる原動力へと変えてくれた。
わたしはいるであろう天井を見上げて微笑む。
「冨美ちゃん、ありがとう!!わたし頑張るからね」
後ろ向きな気持ちが消えた。これから迎えるであろう、出会いと別れを大切にしようと心に決めた。
おわり
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