２３分

交換テープ

　ザァーザァーと聞こえるノイズ音と共に聴こえてくる冨美ちゃんの声。目を瞑り、あの頃の容姿を思い浮かべながらしばし聞き入る。

『後藤(ごとう)冨美です。録音なっているかな～』

『おい、冨美なにやってるんだ？』

『お父さん、今録ってるから早く出て！！』

　カセットテープあるあるにウフフと微笑みながら、タレ目でおっとりしている冨美ちゃんが慌てる姿が目に浮かんでくる。

　わたしたちのあとに交換ノートが流行った。そのときは交換することがなんなのか知らない人が多いなかで冨美ちゃんは、一歩先を見据えていた女の子だったのかもしれない。

『２３分って長いのかな？梅(うめ)ちゃーん、聴いてますかぁ？なに話そうかなって悩んでる』

　確かわたしが手渡したカセットテープも出だしは同じ言葉だった気がする。交換テープなんて言い出したのは冨美ちゃんで、カセットテープを交換して終わりだよって本気で言ったら違う違うっておかっぱ頭を揺らしていたっけね。

『好きな教科は国語で、嫌いな教科は・・・』

『冨美、誰と話してる？』

　またお父さんに邪魔されてる。しばらくお父さんと冨美ちゃんのやり取りが続きＡ面が終わる。

　取り出しボタンを押して、カセットテープを裏返して今度はＢ面を再生していく。