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頭の上にどさっとビニール袋を放られ、「キャッ!」小さく悲鳴をあげる電子レンジちゃん。しばらくして、浴室へと消えた勝さんが首からかけたタオルで頭をかき混ぜながら、パンツ一丁で戻って来た。電子レンジちゃんの頭上のビニール袋から四角い平らな箱を取り出し、電子レンジちゃんの中に放った。
「ちょっとぉ~! レディはもう少し優しく扱ってくれなきゃ!」
電子レンジちゃんのすねた声。聞こえているのかいないのか、勝さんは電子レンジちゃんとしばしにらめっこした後、一つ、ボタンを押した。
ウーーーーン。
電子レンジちゃんにオレンジ色の明かりが灯り、ボクの右側にほんのりとあたたかさがやってくる。それから勝さんはかっかしているボクに気付いて『保温』ボタンをピッ。ボクが『高温保温』に切り替えると、「チッ」と舌打ちした。なんだよ、自分が押したんじゃないか!
勝さんはその後もいくつかボタンを押し、ボクはその度振り回されることに。ようやく保温が解除されたときには、火照りっぱなしだったボクもほっとした……のも束の間。パカリとボクの蓋を開け、そのまま閉めた勝さん。
あれ? もしかして、中のお米はそのまま?
がっかりしつつも、美佐子さんのいない日々は続く。
「勝さんったら食材を乱雑に入れるもんだから、中がぐちゃぐちゃよ。野菜だって萎れてぬるぬる!」
冷蔵庫おばさんが大きくため息をつく。
「勝さん、僕を観ながら寝てしまうので、僕は朝まで働きどおしです……」
大あくびをしながら嘆くテレビくん。
「中の汚れが焦げ付いてて嫌になっちゃう! アタシ綺麗好きなのにぃ!」
電子レンジちゃんがしょんぼりする。
「ボクも、いいかげん腐ったお米を出して欲しいよ。美佐子さん、帰って来るよね……?」
涙声のボク。
ずぅっとこのままだと、家電としてしんどい。ボクらはいかに美佐子さんの手入れが行き届いていたか、美佐子さんがどれだけボクらを大切にしてくれていたかを思い出しては、暗い気分になっていくばかりだった。部屋中重い沈黙が流れる中、
「ったく。こうなっちゃぁ仕方ないね! みんなで勝さんを教育するよ!」
冷蔵庫おばさんがモーターをぶぅん、と唸らせながら、一際元気な声を放った。
「そう…そうですね。やってみましょう!」
「アタシも!」
「ボクも! でも、どうやって?」
嘆いていたって仕方ない。冷蔵庫おばさんの音頭でみんなが活気づいた。勝さんがいない日中、ボクらはひそひそ話し合って、作戦を練り、とうとう勝さんの教育が始まった。
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