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その日もビニール袋を提げて帰宅した勝さん。さっそく電子レンジちゃんを開け、いつもの四角い箱を放ってボタンを押す。
バチッ! バチバチバチ!
電子レンジちゃんの中から派手に火花が散り、白い煙がもくもく。勝さんが慌てて電子レンジちゃんを止めた。
「中が汚れてると汚れまで温めちゃって、火が出るのよ! しっかり掃除してちょうだいよね!」
電子レンジちゃんが叱る。勝さんはあたふたとあたりを見回し、シンクのタオル掛けに干してあった布巾を濡らして、電子レンジちゃんの中をおそるおそる拭いた。
「完璧とは言えないけど、まぁまぁね」
してやったりの電子レンジちゃん。勝さんは四角い箱を手に、とぼとぼとリビングへ。テーブルにあったリモコンを手にテレビくんをつけるやいなや、うろうろ、リモコンをポチポチ、落ち着かない様子だ。
「画面の色を薄くしました! 長時間同じ画面を映していると、画面が焼き付いて変色する恐れがあります! ちゃんと消してから寝ましょうね!」
テレビくんがジージー言いながら主張する。
ぶううーーーーん。
今度は冷蔵庫おばさんから、地響きするくらいのモーター音。ドタドタと足音を響かせ勝さんが飛んできて、冷蔵庫おばさんの前でピチャッ。水を踏んだみたいだ。
「雑な入れ方をするからほうら、隙間があいて冷気が逃げて、床にも水が垂れてるでしょう! しっかりおし!」
冷蔵庫おばさんがピシャリ。勝さんはどこからか雑巾を持ってきて、這いつくばって床や扉を拭いた。それから庫内を片付け、腐ったものをゴミ袋に。と、勝さんの鼻がボクに近寄る。すんすんと鼻を鳴らしたあと、顔をしかめた。それもそうだろう。もう何日も、ボクの中にあるお米はそのままにされ、腐り、強烈なにおいを放っているのだから。
「そのゴミ袋の中に、腐ったお米も入れてよ!」
お願いするボク。勝さんは眉間にしわを寄せながらボクから釜を取り出し、ゴミ袋の上でひっくり返した。お米がへばりついてなかなか取れないみたいで、苦戦している。その後ボクを洗ってまではくれなかったけれど、まぁ、良しとしよう。
こうしてボクらは、勝さんの教育に成功。みんなで功績を称え合った。
そうやって勝さんと、文句はありつつもどうにか過ごしていたある日。突然、美佐子さんが帰って来た。言わずもがな、ボクらは大喜び。美佐子さんコールが湧き上がるくらいに。さっそく美佐子さんは鼻歌を歌いながら、ボクを二、三手で撫でた後、綺麗に洗って拭き上げてくれた。ボクは久々に掃除をしてもらって、清々しさで涙が出そうだった。家電だから、涙なんか出やしないんだけど。
「アタシもアタシも!」
「私も頼むわね美佐子さん!」
「僕もお願いします!」
電子レンジちゃん、冷蔵庫おばさんも中を綺麗に磨いてもらい、テレビくんも積もり積もった埃をはらってもらった。さすが美佐子さんだ。帰って来てくれて本当に良かった。ボクらは美佐子さんのために精一杯働くことを誓ったのだった。
「お肉にお魚、グレーブフルーツに冷やし中華。いろんな食べ物で賑やかになって嬉しいわぁ」
冷蔵庫おばさんが、リズミカルにぶんぶんと機嫌の良い音を立てる。そんなボクも、今は朝昼晩とお米を炊いて大忙し。それが嬉しくって仕方ない。人間の気持ちはよくわからないけれど、勝さんも嬉しそうだな、と思う。リビングの隅に立て掛けてあったギターを持ち出しては、ジャンジャンジャカジャカ、上機嫌で歌っている。それに合わせて、キッチンにいる美佐子さんも鼻歌を歌う。美佐子さんの鼻歌はずっと聴いていたくなるやさしい感じがするけど、勝さんの歌は正直微妙だ。でも美佐子さんは笑ったりしない。とってもとっても楽しそう。美佐子さんがキッチンの掃除を終えたあと、リビングのソファで、二人寄り添う時間が増えた気がする。美佐子さんがいなくなる前よりずっと。
なのに。
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