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その日の朝。休日はいつもゴロゴロして過ごすはずの勝さんが、朝からドタバタと家中を駆けずり回っている。その手にあったのは。
「えらいこっちゃ!」
促されるままゴミを吸ってまわる掃除機さん。ボクらがいるキッチンに来たところで
「アカン。もういっぱいや! これ以上は吸えへんで!」
すぅん、というしょんぼりした音とともに力尽きた。勝さんがゴミ箱の上で掃除機さんのゴミカップを外したはいいものの、力任せに引っ張るものだから、中身が半分以上飛び散った。盛大にぶちまけられた塵やホコリがボクらの鼻をかすめる。
「うわっ」
「ちょっと! 何やってんのよ!」
「もぉ~! 外でやってよぉ~」
ボクらはゲホゲホ咳をする。自身も埃まみれになって咳き込む勝さん。いそいそと雑巾を持って来て掃除したあと、腕時計を見ながらドタバタ家を出て行った。用事があるんならもっと早く起きたらよかったのに、本当に勝さんはどこか抜けている。
「ったく、仕方ないわねぇ……。また教育し直すとしますか!」
冷蔵庫おばさんの提案に、「やりますか」「腕が鳴るね」なんて、みんなでわいわい笑っていたら。
カシャン。ガチャ。
玄関ドアが開く音、それに続いて二人分の足音。勝さんが帰って来た後ろに……美佐子さんがいる! 胸に何か、白い包みを抱いて。勝さんが受け取った途端、白い包みはふうぇ~んと、聞いたこともない音を奏で始めた。
あたたかで、柔らかい音色。いったいどんな家電だろう。ボクとも仲良くしてくれるかな。
美佐子さんが時計の時間のずれに気付いた様子で、目覚まし時計じいさんを持ち上げ、ひっくり返してあれこれ触っている。
「なんとめでたいことじゃ! こいつは黙っておられんぞ!」
興奮した目覚まし時計じいさんが叫ぶと同時に、
「ターラーラーラ、ラーラーラーラ、ラーラーラーラ、ラーララー」
目の覚めるような、歓喜の歌が響いた。
<了>
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