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窓際の1番前が俺の席。相川だから出席番号はいつも1番。毎年変わることのない定位置。
「陸斗なんかいい事あったのか?」
後ろの席の上田優弥が声を掛けてきた。
気付かれるほど浮かれているのだろうか。
「俺、もうすぐ18歳になる」
「そうか、おめで……」
優弥が言い終わる前に手で口を塞いだ。その言葉は麗に1番に言われなければならない。当日じゃなくても聞きたくない。
「1番に言ってもらう予約してんだから言うなよ」
「何?お前付き合ってる奴いたの?」
「まだ恋人じゃない」
優弥が口を開いて何かを言う前に担任が入ってきた。全員が慌てて席に着き、口を閉じる。
正直助かった。あのまま質問されていたら麗の事をうっかり話してしまっていたかもしれない。人の秘密を話すようなやつでは無いが、麗に迷惑を掛けたく無いから絶対に言えない。
昼休み、優弥に誘われて屋上で弁当を食べる。
「なぁ、朝の話聞いてもいいか?」
「今は言えないからダメだ」
「そうか、じゃー聞かねー」
優弥は俺の弁当から玉子焼きをとって口に放る。仕返しにウインナーを奪ってやった。
言えるようになったら言おう。それで惚気たり相談したりしよう。
全ては18歳になったら。
誕生日前日、後2分で日付が変わる。
ベッドの上で今か今かと0時を待つ。1分前にメッセージの通知があった。麗から『玄関の前で待ってる』とだけ貰った。
電話やメールで言われると思っていたから、慌てて家を出た。嬉しい。
「リク、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
スウェット姿の麗が俺の髪を梳いた。俺もパジャマだし、こんな格好でプロポーズするのもアレだけど、麗は俺のものだ、と早く確証が欲しい。
「麗、結婚して」
「大人になったらね。はい、これプレゼント。明日も学校だからもう寝なよ、おやすみ」
掌に乗るくらいの小さな箱を渡されると、家に帰るよう促された。玄関で呆然と立ち尽くす。
俺はもう成人した。大人になった。何でいつもと同じ返事なんだ?やっぱり体良く断られていたのか。そうかもしれない、と思うことはあった。でも、実際に目の当たりにすると心が悲鳴を上げる。胸がズキズキと痛んだ。掴んだパジャマがくしゃりと皺を刻む。
部屋に戻って、受け取ったプレゼントを机の引き出しにしまった。開ける気にならない。
ベッドに横たわっても眠れない。涙が頬を伝い、枕を濡らす。一度流れると決壊したようにとめどなく溢れる。布団を被って声を殺して泣いた。
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