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「うわっ!ひでー顔だな」
優弥が鞄を机に下ろしながら言った。ジト目を向けると肩をすくめて座る。
酷い顔の自覚はある。散々泣いたせいで瞼は腫れて目の下は睡眠不足で黒い。
普段は肩近くまで伸びた明るい茶髪のサイドを後ろで束ねているが、顔を隠すために今日は下ろしている。
気付いてもそっとしておけよ。他の奴らは見て見ぬフリしてくれてんのに。
「あっ、そうだ。誕生日おめでとう」
「……ありがとう」
毎年誕生日が楽しみだったが、今日は人生で唯一辛い誕生日だ。これから毎年誕生日のたびに今日の事を思い出すのだろう。
「これ、使えよ」
弁当の入った巾着から保冷剤を抜いて差し出された。礼を言ってハンカチで包み、目に当てる。
「話してスッキリするなら聞くぞ。言いたくなければ言わなくてもいいけど」
「優しくすると惚れるぞ」
「無理。俺、可愛い恋人いるから」
「知ってる」
大きなため息を吐いた。
午前の授業中ひたすら悩み、優弥に聞いてもらうことにした。
昼休みに弁当持って空き教室に行く。日当たりの良い窓際に並んで床に腰を下ろす。弁当を食べながら口を開いた。
麗の名前は伏せる。隣に住んでる兄ちゃん、として話した。
「お前、14年間も片思いしてたの?」
「そう」
「そりゃー、あんなブサイクな顔になるまで泣くよな」
「ブサイク言うな!もう戻ってるだろ」
保冷剤で冷やしたおかげで腫れは引いた。くまは取れないけど。
「今日早く寝たら可愛い顔に戻るんじゃね?」
目の下をつつかれる。
「うるせー、今のままでも可愛いだろ!」
優弥の頬をつねって笑い合った。
ガラガラと引き戸の開く音がして、そちらに目を向ける。麗が目を丸くして、すぐに鋭い視線を向けた。
「ここで何をしている」
コツコツと靴音を響かせて近付いてくる。
「何って弁当食ってるだけですけど?もしかしてこの部屋使っちゃいけなかったんですか?」
優弥が答え終わると麗が目の前に立って首を横に振った。
何で麗はキレてんだ?キレたいのは俺なんだけど。
「その体勢でお弁当を食べてるだけ?」
体を寄せてお互いの顔を触り合っている事に気付き手を離した。
「別に仲良くしてる分には良くない?殴り合ってるわけじゃないんだし」
食べ終わった弁当を片付けて立ち上がる。
「行こーぜ」
優弥に声を掛ければ、そうだな、と立ち上がる。麗の横を通り過ぎようとすると腕を掴まれた。
「相川君、待ちなさい」
名字で呼ばれた事で頭にカッと血が昇る。
「触んなよ。俺が何してても、ただの教師には関係ねーだろ」
腕を振りほどいて部屋を出た。
「藤崎先生ってあんな顔すんだな。基本的にあの先生笑ってんじゃん。爽やかに」
「知らねーし興味ねー」
「お前も機嫌悪いの分かるけど、教師にあたるなよ」
本人だからあんな態度取ってんだよ。優弥には言えないけど。他の教師だったら、反抗的な態度なんてとらない。
ムシャクシャする!教室の扉を勢い良く開いて声を上げた。
「放課後暇な奴、今日誕生日の俺を祝え!」
「陸斗おめでとー」
「俺暇だよ」
「どこ行く?」
「僕も行く!」
ノリのいいクラスメイトに囲まれた。朝の酷い顔の事もあり、何も言わずに励ましてくれてるのだろうと思い感謝する。
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