3 水曜日

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3 水曜日

   十二月に入ってすぐ、その日はいつもと何ら変わらないはずだった。寒さの所為で布団から出るのに苦労して、寝ぼけたまま朝飯を食べ、マフラーを巻いて外に出て、ポケットに手を突っ込む。北風で頬が痛くなり始めた頃に駅へ到着して、いつもの電車に乗り込んだ水曜日。まだ週の半分か、と俯きがちに欠伸をしながら学校の最寄り駅で電車を降りる。  違和感に気がついたのは、顔を上げた瞬間だ。  駅のホームはこの時間、通勤と通学で混み合ってはいるものの、人とぶつかるほど歩くのが難しいわけでもない。しかし、左肩が誰かにぶつかった。それだけであれば偶然と言ってしまえばいいのだが、皆がホームの中央付近を避けるように進み、どうやらその所為で人波が出来上がっているらしい。  眠い上に、寒い。何か日常とは変わったことが起きているのは判るが、それをわざわざ確認しようとは思わなかった。 「あなたがルールを守っていなかったからです!」  聞き馴染みのある声が耳に入るまでは。  俺は人のあいだを縫ってホームの中央へ向かった。人の波にぽっかりと空いた穴の中心には、関谷が居た。  もっと正確に言うならば、小汚い恰好をした男に胸倉を掴まれた関谷が居た。 「何やって……」 「うるっせえんだよガキが!」  誰にも聞こえないような俺の声を掻き消すように、その男は罵声を上げる。  
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