3 水曜日

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  「オレの煙草代、返せってんだよ!」 「禁煙のポスターがあります。ここで吸うのは迷惑で」 「いいから煙草代出せってんだよ! オイ!」  男が左手を握りしめ、振り上げる。俺は考えるよりも先に二人のあいだに割り込む形で振り下ろされた男の左手を弾いた。その反動で関谷を掴んでいた手も緩んだようで、その一瞬の隙を突いて関谷の手首を掴む。 「行くぞ」 「えっ」  鼻を掠める微かな煙草の匂いと酒の匂い。  耳に入る「駅員さん、こっちです!」と叫ぶ女性の声。  様々な方向から向けられる視線。  いつもより多くて騒がしい人混み。  全部を振り切って、関谷だけを掴んだまま俺は走った。  改札を抜け、人気のない高架下まで来たところで、後ろに引いていた手が振り払われた。立ち止まって振り返ると、関谷は乱れた呼吸で肩を大きく上下させている。 「大丈夫か?」 「何が……ですか」 「変なおっさんに絡まれてたから」 「なんでこんなこと……っ!」  予想外の様子に、俺は面食らった。眼鏡の奥からこちらに向けられた瞳は、明らかに怒っていたのだ。 「なんでって。だから変なおっさんに絡まれてたから」 「僕はただ、マナーが悪いと思ったので、注意をしただけで」 「いや、どう見てもお前、危なかっただろ」 「だからってどうして逃げたんですか」  関谷からは責めるような視線が飛んでくる。思ってもみない反論に理解が追いつかず、だんだんと自分の中にも苛立ちが沸いてきたのがわかった。 「僕は逃げなきゃいけないようなこと、してません」 「もうちょっとで殴られるところだっただろ」 「でも」 「お前が殴られると思って助けてやったんだよ」 「頼んでません!」  
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