1 月曜日

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   関谷のほうへ、一歩、さらに詰める。 「じゃあ、なんであんなこと言ったわけ」 「……」 「俺のことからかってんの?」 「……」  口を閉じたままの関谷が、僅かに首を横に振った。 「お前、さ……俺と付き合いたいの?」  鬱陶しいくらいに鼓動が煩かった。  こんな恥ずかしい質問があるか、と自分自身に突っ込みを入れる。顔に熱が集まって、今すぐにでも背を向けたい。でも、ここまで来たなら、最後まで問い詰めなければ。放課後を使ってまでこいつを追って来た意味も無くなるし。  考えを巡らせる俺に対して、関谷はまた少し足を引く。 「……」 「ずっと黙ってるつもり?」  頬を赤くした関谷の唇が微かに開いて息を吸うのが見えた。そしてさらに開いた口から、思ったよりも少し大きな声。 「わ、わかりません」  俺は溜息を吐いた。苛立ちはそれと一緒にどこかへ飛んでいったのか、それとも腹の底にただ沈んでしまっただけなのか、とにかく見失ってしまった。 「そりゃ俺の台詞」 「……」 「いきなり好きだとか言われて、そのまま逃げられて、そんでやっぱり忘れて無かったことにしてって……、相当わけわかんないことしてるはお前だと思うんだけど?」 「それは……っ、すみません。でも、決してからかいたかったわけでは」  ありません、と消え入りそうな声が続いた。似たようなやり取りを前にもしたような気がする。あの時はその場の苛立ちに任せて、「もうなんでもいい」と投げ出した。が、今日はそんな気分にはならなかった。  背を向けずにこのまま待って、何か、その続きを聞きたかったのだ。 「何」 「僕は」  明らかに言葉を言い淀む関谷を、俺はただ待った。  すると関谷は息を吸う。 「あと半年で、大学受験があるんです」 「……」  急になんの話だ、と喉まで上がった言葉を飲みこんで、「それで?」とだけ口を挟む。 「大事な受験で。絶対、失敗できなくて。でも、他のことを考えていいほど余裕ないんです、正直」  関谷は持っていた箒を元の場所に立てかけ、眼鏡を上げたあと、空いた両手を握りしめてこちらを真っ直ぐに見つめる。 「松永くんにお願いがあります」  頬は、あの日と同じように赤く染まっていた。 「受験勉強に付き合ってもらえませんか」 「え? ……受験勉強って、俺が?」  これまた突然の内容にそう返すが、俺以外なわけがないか、と心の中で自答する。 「勉強なんか出来ねえぞ」 「大丈夫です」  大丈夫って、何が……。そう思ったものの、逸らされることのない視線に口を噤む。関谷も口元をぎゅっと結んだが、なんとなく、何かを言おうとしているのが判った。 「受験が無事に終わったら、もう一度、ちゃんと話します。だから、お願いします」  俺は頷いてから、「わかった」と返す。今これ以上なにを訊いても、話は進まないような予感がした。  それに、相変わらず唐突で予測が出来ない関谷の意図や感情を、もっと知りたいと思う自分がいた。  
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