2 火曜日

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   人生で初めて集中して本を読んだ、と言っても過言ではなかったが、さすがにそう長く続けられるものでもなかった。順調に読み進めるのに比例して首が痛くなってきて、思わず天井を仰ぐ。  視界の端に入った関谷の様子に気がついたのはその時だった。 「……」  関谷は、ペンを握ったまま目を閉じていた。どうやら眠ってしまったらしい。 「おーい」 「……」 「……お前が寝るのかよ」  独り言のような声量に、さらに小さな寝息が返ってくる。時計を見上げると、最終下校時刻までにはまだ時間があって、起こすべきかどうか少し迷った。  開けてあった窓からは夏の気配をほとんど失くした涼しい風が入り、関谷が広げていたプリントを浮かせるように机上を撫でる。そして、そのうちの一枚が完全に浮かされて、俺は慌てて腰を上げた。机から落ちる寸前で伸ばした右手の指先が届き、近くに置いてあった関谷の参考書で押さえつける。  そしてほっとして息を吐くのを同時、俺は思わず動きを止めた。  プリントの端が風に煽られる音に紛れて、さっきよりも近づいた寝息。手を伸ばした拍子に、他でもない自分が関谷に近づいた所為だった。  関谷はと言うと、そんな俺に気づかずに、ノートに文字を書く姿勢のままでかすかにこちらへ顔を傾けたまま目を閉じている。  受験……か。  進学しない自分には無関係だと思っていたそれに、こんな形で関わることになるなんて。眼鏡の奥の長い睫毛を眺めながら、そんなことを考える。  順調、なんだろうか。俺なんかには全然具合はわからないし、そもそもどれだけ大変なことなのかもわからない。  ――受験が無事に終わったら。 「……」  ――もう一度、ちゃんと話します。  初めて関谷の顔をまじまじと見ながら、自分の鼓動が少しずつ速度を増していくのを感じた。  俺、こいつに。  告白宣言、されてる……のか。 「ん……」  眼前で関谷が目を開ける瞬間が、スローモーションのように見えた。実際それくらいにゆっくり開けたのかもしれないが、とにかく俺は慌てて身を引いて立ち上げる。そして、関谷の起きる動作を横目に、読んでいた文庫本を持って背を向けた。  
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