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本を戻すために棚へ向かうあいだも、鼓動は煩かった。
今更、何をこんな、動揺するみたいな風になってんだ俺は。告白宣言どころか、告白自体すでにされてるってのに。
危うく落としそうになりながら文庫本を返却棚に入れ、関谷のところへ戻る。目を覚ました関谷は、きちんとペンを握り直して参考書に目を落としていた。
「おい、今日はもう帰るぞ」
「え?」
鞄を持つ俺を、関谷は不思議そうに見上げた。そんな視線から逃げるように俺は窓辺に向かう。
「寝落ちするくらい疲れてんなら、帰って寝たほうがいいだろ」
窓を閉めるのと同時に、後ろから「いえ、僕は」と声がした。
「大丈夫です。少しうとうとしてしまっただけで」
振り返ると目が合って、俺は再び視線を逃がす。
「駄目だ。今日は帰る。ほら片付けて。置いてくぞ」
バレるわけがないのに、自分の鼓動が聞こえていないか不安になった。誤魔化すために鞄を引っ掴んで、関谷を待つこともせずに出口へ向かう。
「ちょっと、待ってください!」
関谷がようやく俺に追いついたのは、廊下に出たあとだった。後ろから飛んできた声を聞き流しながら昇降口を目指すが、手首を掴まれたので足を止める。
「ごめんなさい」
振り返るのと同時にこちらを見上げる関谷と目が合った。
「なんで謝るんだよ」
「僕から誘っておいて、居眠りなんて。……松永くん、怒ってると思って」
「別に怒ってねーよ」
「……本当ですか?」
弱々しい視線で、どうやら本当に俺が怒っていないかと心配しているらしい。
「マジで怒ってないって」
「そう、ですか」
なかなか納得しない関谷に、俺は少し観念して息を吐く。
「俺、受験のこととか多分なんにもわかってないけどさ、無理しすぎるのが良くないってことくらいはわかるよ。毎日頑張ってるのも知ってるし、今日くらいは早く帰るのもアリだろって思った。そんだけ」
はあ、と何故か煮え切らない返事をする関谷に、
「お前の受験、応援してんの。わかる?」
と続けた。
目の前で困惑していた表情が少しずつ変わっていくのがわかったが、見ない振りをして「帰るぞ」と再び昇降口へ足を向ける。数秒遅れて背後から、「はい!」という弾む声と足音がついて来た。
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