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プロローグ
「どこが間違ってたんだろ」
第一希望だった西高校の受験に落ちた日、僕の後ろで母が呟いた。
母が「西高校に行く」という目標を僕に掲げたのは、小学生の頃だった。その頃から母は、かつて自分が西高を目指していたこと、それが叶えられなかったこと、そしてその夢を僕へ託したことをよく話すようになった。
勉強は嫌いではなかったし、得意なほうだという自負もあった。何より、満点を取れば母に褒めてもらえる。二歳下の弟が勉強に全く興味を示さなかったぶん、母は僕に時間とお金、そして期待を注いだ。
けれど、あの瞬間、「不合格」という結果がその全てを無駄にした。
僕が間違った所為で、母を裏切ったのだ。
「……」
あの日、僕は母の言葉に対して、返事をするどころか振り向くことさえ出来ず、それ以来まっすぐに母の顔を見られなくなった。
進学が決まった高校の入学式の朝、来る様子のない母に「いってきます」と告げて家を出た。返事がないという事実を、ドアを閉める音で曖昧にする。当然だとは理解しつつも、どうにもならない後悔は頭の中でずっと回転していた。
あの時、もっと。
あの問題を、なんで。
なんで、間違ったんだ。
何回も、何百回も繰り返した無意味な思考が、重い鉄の塊みたいに足に括り付けられているような感覚。それを引き摺ったまま学校へ向かう。
慣れない電車に揺られながら、新しい景色を眺め、最寄り駅に足を下ろす。改札を抜けて歩き始めた頃には、周りが自分と同じ制服を着た人たちばかりになっていた。
……そうだ。僕は、この高校に通うんだ。
今度こそ、これ以上、何も間違えないように。
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