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リュカとの約束までの時間を、ときどき休憩を挟みながら部屋の片付けに費やした。もちろん、リュカへの手土産を探すことも忘れずに。
「うーん……お、これなんかよさそうじゃないか?」
赤と白、それぞれよさそうなワインのボトルをトランクから見つけた。
彼は何をご馳走してくれるだろうか。今日行ったスーパーで、リュカが魚のアラと量り売りのハムを買っていたことを思い出しながら、今晩のメニューを推理してみる。が、しばらく考えて、せっかくなので二本とも持っていくことにした。部屋にブランデーが置いてあるくらいだから、きっとリュカもお酒が好きだろう。
時間どおりにリュカの部屋をたずねると、部屋いっぱいに食欲をそそるいい匂いが漂っていた。
「いらっしゃい、ジェイミー」
「お招きありがとう。これ、いっしょに飲もう」
ワインを二本差し出すと、リュカはわあ、と声を上げて笑顔で受け取った。
「気を遣わなくてよかったのに。でもありがとう。白は冷やしておくよ」
ダイニングの小さな丸テーブルには、ふたり分の食器とカトラリーがセットされていた。
促されてテーブルにつくと、リュカがテーブルに料理を運んできた。鶏ひき肉とレバーのパテ、サーモンのカナッペ、トマトスープが並べられる。
「もうすぐキッシュも焼けるからね」
「すごい、ご馳走だな」
「恥ずかしいな。ほとんど出来合いのものなのに。料理は嫌いじゃないけど、得意と言えるほどじゃないんだ」
出来合いのものだとしても、これだけ準備をするのはそれなりの手間がかかるはずだ。ジェイミーは感心して、十分すごいよと感謝を伝えると、リュカは気恥しそうに笑って、それから赤ワインのボトルを手にして「さっそく開けてもいいかな?」と言った。
「もちろん。道具があれば、僕が開けようか」
「お願いするよ」
コルクを抜いて、並べてあったグラスに注ぐ。ワイングラスというより、背の低くてずんぐりした丈夫そうなゴブレットだ。ジェイミーの手慣れた様子に、視線だけでリュカが感心しているのが伝わってくる。
「じゃあ、乾杯。えーっと、僕たちの出会いに?」
「うん! 出会いに乾杯。お隣さん同士、よろしくジェイミー」
カチン、と控えめにグラスをぶつけて微笑み合う。下心などまるで感じられない、ふにゃふにゃとした人のよさそうな笑みは、見ていて癒される。隣の住人がリュカでよかったな、とジェイミーは今更ながら思った。
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