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 そのうちにキッシュも焼き上がった。  すこし冷ました方が切りやすいようだが、せっかくだから焼きたてを食べようと言ってリュカが熱々の焼きたてを切り分けてくれた。バターと、卵の焼ける匂いが最高に食欲をそそる。  キノコと分厚いベーコンが入ったキッシュは絶品だった。舌を火傷しそうになりながらそのままをリュカに伝えると「パイシートは既製品なんだよ」と言い訳したあと「でも、一番自信がある料理かも。ありがとう。お口に合ってよかった」とはにかんだ。  冷蔵庫で冷やしてあった白ワインも開けた。  ふわふわした見た目とは裏腹に、リュカは酒に強いらしい。  二本目のワインもあっという間に空になり、食後にブランデーと、デザートにチーズをつまんだ。  酔っ払っているようには見えないけれど、リュカはリラックスした様子だ。それがあまりにもアルファに対する警戒心に欠けているように思えて、ジェイミーは思わず苦言を呈した。 「リュカ、信頼してくれているのは嬉しいけれど、もうすこし警戒心は持った方がいいんじゃないかい」 「どうしてさ?」とリュカは不思議そうに小首を傾げた。 「どうしてって……」  ジェイミーは言葉に詰まった。  婉曲な表現は苦手だ。それがたとえ率直過ぎて配慮を欠いた言い方になろうとも。 「きみがオメガで、僕がアルファだからだよ」 「えっ」とリュカは目を丸くした。  これですこしは自覚が芽生えるかと思ったが――と言っても、せっかくできた友人にあまり警戒されても悲しいのだけれど――リュカからは予想外の言葉が返ってきた。 「えっと、ジェイミー……きみ、アルファだったんだ?」 「気付いてなかったのかい!?」  思わず「なんて鈍いオメガなんだ……」と呟くと、「きみ、失礼だね」とリュカに睨まれてしまった。よく言われる。  しかし続くリュカの言葉に、ジェイミーはますます驚いた。 「だって、仕方ないじゃない。僕、アルファなんて生まれて初めて会うんだもの」 「初めて? アルファが?」 「うん。オメガだっていう人にも、会ったことないかもなあ……」  オメガもアルファも、世界中の人口のほんの数パーセントだという事実は知識としては知っているものの、実感はない。魔法学校の生徒は大多数がオメガとアルファで、ベータの割合の方がごくわずかだったからだ。魔法使いには、オメガとアルファが多いのだ。
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