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翌日は、昼近くに起きだして、ジェイミーはシャワーを浴びたあと街に出掛けた。
レトルトで昼食にしてもよかったが、出掛けるついでに外で取ることにした。昨日リュカと行ったカフェ以外にも、いろいろと店を教えてもらったのだ。
目的地のデパート(ここも、リュカに教えてもらった)は、アパルトマンからのんびり歩いて三十分ほど。途中すこし寄り道をして、リュカおすすめのパン屋(昨日行ったカフェの、一号店のパン屋だ)でサンドイッチとカプチーノを買った。
近くの公園で紅葉を眺めながら、サンドイッチを齧る。
秋はどんよりとした曇りの日が多い地域だと聞いていたが、今日はめずらしく快晴だ。セーターの上に念のためジャケットを羽織ってきたが、歩くとすこし暑いほどである。
公園のベンチから見える、馴染みのない街並み。改めて知らない街に来たのだな、と思う。それも、ひとりで。
学園を卒業してからというもの、彼と――元恋人のエリスと、あちこちの国を、街を、旅して回った。彼とはいつもいっしょだった。だけど、今はひとりだ。――別に、さみしいわけではないけれど。
秋はおセンチな気分になるからいけない。
ジェイミーは残りのサンドイッチを口の中に押し込むようにして平らげると、気を取り直してふたたびデパートへ向けて歩き出した。
目的の物を購入したジェイミーは、帰りはのんびり散歩を楽しむということはなく、こっそり入った路地裏から、魔法でまっすぐ古いアパルトマンの自分の部屋に帰ってきた。
買ってきたのは、毛足の長いラグだ。
冬は暖炉の前で寝転がって過ごしたい。そのために、肌触りのいいラグが欲しかったのだ。早速暖炉の前にラグを敷いて、ジェイミーは満足げに鼻を鳴らした。
ひとつひとつ、住み心地のよい部屋に変えていくのだ。
これからもっと寒くなるが、この部屋には広いバルコニーがついている。あたたかくなったらテーブルと椅子を置いて、外で食事をするのもよさそうだ。エリスが好きそうだな、と考えたところでジェイミーはその思考を振り払うように頭を振った。
いいかげん、彼のことを考えるのはよそう。
午後は、部屋を整えつつ、ときどき休憩にコーヒーを淹れて、昨夜リュカに借りた本を読んだ。
すこし迷って、リュカの著書の方から読みはじめることにした。
執筆の他に、翻訳の仕事もしていると言っていた。いや、あの口振りではメインの仕事は翻訳の方だろうか。
何にせよ、リュカは働いている。オメガであればアルファに養ってもらうという道があるはずなのに、リュカは働いているのだ。アルファのいない環境では、その選択肢がないのだから仕方ないことなのだろうけれども。
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