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「おはよう、リュカ」  翌日、買い物に行くために部屋を出ると、ちょうどリュカも出掛けるところだったらしい。玄関先でかち合った。「おはよう、ジェイミー」とはにかむリュカの顔色は昨日と比べると随分といい。 「今日もバイトかい?」 「今日は買い物に行くところ。冷蔵庫が空っぽで」  昨日見たリュカの家の冷蔵庫の中身を思い出しながら、ジェイミーは「ああ」と頷いた。リュカが気恥ずかしそうに笑う。 「ジェイミーは?」 「僕も買い物だよ。いろいろ揃えなきゃね。その前に何かお腹に入れたいんだけど、おすすめの店はあるかい」 「それならいいカフェがあるよ。僕もいっしょに行っていい? 昨日のお礼にご馳走させてよ」  一度は遠慮したジェイミーだが、リュカが是非にと言ってくれるので、お言葉に甘えてご馳走になることにした。  隣を意気揚々と歩くリュカを横目で観察しながら、ジェイミーは安心した。  陽の光の下で見るリュカは、昨晩の顔色の悪さが嘘のようにキラキラと輝いて見えた。昨日はぐっすり眠ったのだろう。血色も戻り、隈も目立たない。  リュカが連れて行ってくれたのはアパルトマンから1ブロック歩いたところにあるカフェだ。この辺りで人気のブーランジェリーが昨年出したばかりの2号店だという。月曜日の今日は、朝八時半から十一時半まで朝食のアラカルトを提供している。日曜日だけは朝十時から昼の二時までブランチのセットになるらしい。 「ブランチも美味しいので、気に入ったら是非日曜日にも来てみてください」とリュカはニコニコしながらメニューを開く。  おすすめのメニューをひとつひとつ解説してもらい、ジェイミーはスクランブルエッグとチーズクロワッサン、カプチーノを注文した。  昨日の大人しそうな印象とは違い、リュカはよく喋ってよく笑った。  旬のフルーツジャム(今日はイチジクだ)がたっぷりかかったフレンチトーストを嬉しそうに頬張るリュカに、ジェイミーは尋ねた。 「よくああして具合が悪くなるのかい?」 「昨日は本当に、たまたま……仕事で徹夜したところに、急遽バイトに行かなきゃいけなくなっちゃって」 「仕事?」  成人はしているだろうとは思っていたけれど、バイトと言うくらいだから、てっきり学生か何かだと思っていた。よくよく考えてみれば、学生にあのアパルトマンは高価すぎるだろう。家族の持ち物なら別だが、どうやらひとりで暮らしているようだし。  考えていることが顔に出ていたのだろう。リュカは頬を膨らませて「僕、二十七」と言った。 「えっ」  まさか年上とは思わず、ジェイミーは絶句する。
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