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「本業とは別に、知り合いの店をときどき手伝ってるんだ。昨日はバイトの日じゃないんだけど、店主がぎっくり腰になっちゃって、急遽呼ばれたんだ」 「寝不足の上貧血でフラフラだったのに? お人好しだな」 「責任感が強いと言って。昔からお世話になってる人だから、力になりたかったんだ」  そう言ってフレンチトーストを頬張る。口いっぱいに食べ物を頬張るなんて子どもっぽい。おまけに唇の端にイチジクのジャムまでついている。  ジェイミーは無言で自分の唇の端を指す。リュカは眼鏡の奥の、くりっとした目を瞬いて、舌でペロリと舐め取った。  なんだかいけないものを見てしまったような気になって、ジェイミーはそっと目を逸らしてカプチーノを啜った。  朝食のあとは、リュカが行くつもりだった食料品がメインのスーパーにいっしょについていくことにした。  ひとりでぶらぶら散策するのもいいが、もうすこしリュカと話していたいと思った。 「朝食のお礼に荷物持ちくらいにはなるよ」と言うと、「じゃあ今度は荷物持ちのお礼をしなくちゃ」と楽しげに笑った。  リュカが向かったのは小さなスーパーで、食料品と、最低限の日用品が置いてある。家から一番近くのスーパーだ、とリュカは言った。もう少し足を伸ばせば、冷凍食品のみを取り扱うスーパーなんてものもあるらしい。 「新鮮な野菜はマルシェで買うのがおすすめだけど、ひとり暮らしだと使い切れないこともあるから。自炊するならカット野菜とかも売ってるから便利だよ」  自炊をする予定はまったくないが、総菜やパンもあるらしいので、この先お世話になることもあるだろう。  野菜や肉、魚を買い物カゴに入れていくリュカと対照的に、ジェイミーの目的はレトルト食品だ。  ひとまず数日分あればいいだろうと、牛肉の赤ワイン煮込み、真鱈のレモンソース掛け、仔牛のクリーム煮、と気になったものを次々放り込んでいると、リュカが目を丸くしている。 「どうしたの?」 「いや……ちょっとびっくりして」と、リュカは苦笑いを浮かべた。  ジェイミーはああ、と頷いた。 「人には向き不向きがあるから」と肩を竦めると、リュカもそうだねと笑う。 「これまでどうしてたの? 実家暮らし?」  その質問に他意はないのだろう。会話の流れを考えても、ごく自然な質問だ。  ジェイミーは一瞬息を詰め、それから渋々答えた。 「……恋人と、いっしょに暮らしてた」  恋人、という単語を発するとき、喉に何かがつっかえたようだった。気持ちの整理はついていたつもりだったけれど、自分が思うよりもずっと引きずっているようだ。衝動のままに、泣き喚きたいような気分だった。そんなことはしないけれど。  リュカはそんなジェイミーの様子に気付くはずもなく、「しっかり者の恋人に甘やかされてたんだねえ」とからかうように笑う。だが、すぐにハッとした様子で「ごめん」と言った。 「ごめん、僕、余計なこと言ったね」 「いいんだよ。本当のことだから」  ジェイミーは思わず苦笑いを浮かべた。  リュカに気を遣わせてしまうほどに、自分は傷ついた顔をしていただろうか。だとしたら本当に情けない。
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