3人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
000. Prologue
「始まる、ね……」
僅かな電灯のみが照らされた、天井の低いバックステージ。
先刻までざわめきが支配していた機材の向こう側からは、今は統率のとられた掛け声が聞こえてくる。
「……呼ばれてる」
反響する声を聞きながら、青年――鈴鹿柘榴は呟いた。
その声が呼ぶのは、彼らを表す名前。
今宵、この会場には――アイドルユニット『ToP』を愛する観客五万人が集い、主役の登場を待ち望みにしていた。
「……慣れないな、やっぱり」
柘榴の隣に立つ青年――橄欖坂衣織が、困ったように苦笑する。
相変わらずの緊張しいに、柘榴は思わず頬を緩めた。
「えへへ、そうだね」
眉尻を下げた微笑みを返しながら、柘榴はそっと衣織の手を取る。
薄い手のひらに人差し指を乗せ、長い線と短い線を交互に三回ずつ描く。
「……はい、三回書いたよ」
「ん……交代」
そっと手を離せば、今度は衣織がこちらの手を取り、同じように三回。
そうしてお互いにいつも通りの行為を施して、二人で手のひらを口に運ぶ。
「……っふふ」
「ふへへ」
顔を見合わせ、どちらからともなくふわりと笑う。
このルーティンも、もう手慣れたものだ。
最初のコメントを投稿しよう!