000. Prologue

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000. Prologue

  「始まる、ね……」 僅かな電灯のみが照らされた、天井の低いバックステージ。 先刻までざわめきが支配していた機材の向こう側からは、今は統率のとられた掛け声が聞こえてくる。 「……呼ばれてる」 反響する声を聞きながら、青年――鈴鹿(すずか)柘榴(ざくろ)は呟いた。 その声が呼ぶのは、彼らを表す名前。 今宵、この会場には――アイドルユニット『ToP』を愛する観客五万人が集い、主役の登場を待ち望みにしていた。 「……慣れないな、やっぱり」 柘榴の隣に立つ青年――橄欖坂(かんらんざか)衣織(いおり)が、困ったように苦笑する。 相変わらずの緊張しいに、柘榴は思わず頬を緩めた。 「えへへ、そうだね」 眉尻を下げた微笑みを返しながら、柘榴はそっと衣織の手を取る。 薄い手のひらに人差し指を乗せ、長い線と短い線を交互に三回ずつ描く。 「……はい、三回書いたよ」 「ん……交代」 そっと手を離せば、今度は衣織がこちらの手を取り、同じように三回。 そうしてお互いにいつも通りの行為を施して、二人で手のひらを口に運ぶ。 「……っふふ」 「ふへへ」 顔を見合わせ、どちらからともなくふわりと笑う。 このルーティンも、もう手慣れたものだ。  
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