002-02. その一輪は雪の中で

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  「……心臓止まるかと思いました」 「ふふっ、また新たなカワイコちゃんがニィに心を盗まれちゃったかぁ……」 「人聞きの悪い言い方はやめてくれ、ローザ」 「あっ、ニィ! お疲れ様!」 ローザと感想合戦をしているうちに、撮影を終えたニゲラがこちらに歩いてきていた。 どうやら話している内容が聞こえていたらしく、苦笑いを浮かべるように眉尻を下げつつ、緩やかに口角を上げている。 「今日も最高だったよ~! さすがは俺の相方!」 「そうか……ローザがそう言ってくれるなら、きっといいパフォーマンスができたんだろうな」 満面の笑みを浮かべたローザからペットボトルを受け取り、ニゲラが水を口にした。 先程のパフォーマンスを見た後だからだろうか、何気ないその動作ですら、人を惹きつける華があるように感じられる。 ……まあ、研修生とは言え多くのファンがついているアイドルなのだから、魅力的なのは当然のことなのだが。 柘榴がそんなことを考えている間にも、ニゲラとローザは三脚からカメラを取り外し、撮影したばかりの動画をチェックし始める。 「……?」 和気藹々とした様子を見つめていた柘榴だったが、不意にガラス扉の向こうから視線を感じ、そちらに顔を向ける。 そこには、柘榴やニゲラと同年代と思しき三人の少年が、こちらの様子を見ながら何やら話している姿があった。 ……見たことのない顔だが、研修生だろうか。 「……あの……ろざさん、ニィくん……」 「んー? ざくくん、どうしたの……って、あ~……」 遠慮がちに名前を呼べば、すぐにローザが柘榴のほうを向き、言わんとしていることに気が付く。 そしてそのままおもむろに立ち上がり、ドアに向かってスタスタと歩いていった。 「……やあやあ! もしかして、この部屋使いたい感じ? 一応、俺らで一時間予約しちゃってるんだけど」 勢いよくドアを引き、明るい声で言い放つローザ。 その様子に、柘榴は僅かに首を傾げてしまう。 にこやかな表情を浮かべ、軽快な物言いをしているが、これは……。 「あー……えっと、いや……」 急に目の前までやってきたローザに気後れしたのか、一番ドアから近い位置に居た少年はしどろもどろな返答をする。 どことなく剣呑な、居心地の悪い沈黙が場を支配している。 「……ローザ、もういい」 しかしてその緊張は、柘榴の前に佇むニゲラの一声で破られた。 「チェックは終わった……問題なしだ。後はこれを柴田さんに送るだけだから、この部屋はもう使わない」 「……そう、なら良かった」 んじゃあ片付けちゃおっか~、と言いながら、ローザがくるりと踵を返す。 その声音は先程まで柘榴と話していた時と同じ、ひたすらに明るく愛嬌のあるものに戻っていた。 「片付け終わってシャワーしたら、ご飯食べに行こ! ざくくんも一緒に行くよね?」 「えっ、あ……はい」 ローザの問いかけで我に返った柘榴は、撤収作業を手伝うべく椅子から立ち上がる。 その折にちらりと窺った少年たちの顔は、見るからに苦々しい表情を浮かべていた。  
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