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「デビュー組並みのファンがついてる子も居れば、テレビどころかステージに立ってすらいない子も居る……けど、その百人のほとんどが、デビューを掴もうと死に物狂いで頑張ってる。他人を引き摺り下ろしてでも、輝こうと足掻いてる」
言葉に合わせて、ローザの箸が柘榴から奪ったミニトマトをつんつんとつつく。
つやつやとした新鮮なミニトマトが、皿の上でころりと寝返りを打った。
「そんな中でさ……偶然目立ったり、ぽっと出だったり、ただ運が良かっただけの子が、延々続いてるレースを無視してトロフィー搔っ攫って行っちゃったら……そりゃあ、いろいろ思うところはあるでしょ?」
「……じゃあ、さっきの人たちは、」
「ローザ、柘榴。滅多な話はするもんじゃない」
柘榴の言葉を遮るようにして、静かな声が二人を制する。
会計を終えたらしいニゲラが、いつの間にかローザの席の隣に立っていた。
「待たせたな。思ったより買うのに手間取った」
「ふふふっ、今日はチャーシュー麺の日だもんね。大人気だ」
冷める前に食べ始めちゃおう、というローザの言葉に急かされ、三人は食事を開始する。
「いただきます……」
小さく呟いて箸を手に取るも、頭に浮かんだ悲しい考えが邪魔をして、ハンバーグに手を伸ばす気が起こらない。
「柘榴」
そんな柘榴の様子を見るに見兼ねたのか、ニゲラが箸で麺を持ち上げながら柘榴に呼びかけた。
「運が大きく絡む世界である以上、こういうのは割り切ることも必要だ」
「…………」
「……多少は気にしてもいいから、飯だけはしっかり食おう。柘榴が倒れたら、俺たちも柴田さんも心配する」
相変わらずクールではあるものの、じんわりと優しい声音が柘榴を諭す。
何とか口に運んだハンバーグの味は、正直よく分からなかった。
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