003-01. 蕾閉ざす夜風

2/3
前へ
/42ページ
次へ
  「……バックダンサーなし、本当にざくくん一人かあ」 ローザが静かに呟き、ニゲラが考え込むように顎に手を当てる。 「これ、移籍組レベルの扱いだよな。そんなに知名度すごいのか、柘榴」 「ああ。『読モ時代、柘榴が登場した号の後に雑誌公式アカウントのSNSフォロワーが激増した』って社長が言ってたからな」 「わあ……そんな子を後列で出したら、センターの出番食っちゃうね……」 「そういうことなら、妥当だな」 柴田マネージャーたちが話している横で、柘榴は黙って青くなっていた。 研修生中心とは言え、それなりに注目されている番組で、いきなりのソロ。 しかも、観客は研修生のファン――デビュー組からもう一歩踏み込んだニッチな領域を見ているような、そういう層だ。 「……ざくくん、大丈夫?」 「……はい」 「大丈夫そうな顔色はしてないぞ」 「…………正直吐きそう」 「だよね……よしよし……」 ローザが憐れむような表情を浮かべ、柘榴の頭を撫でた。 「どうする? 社長判断ではあるけど、さすがに新人には荷が重いって意見ももっともだからな……見送りにしたいっていうなら、俺から交渉するけど」 柘榴の様子に想うところがあったのか、柴田マネージャーが苦笑しながら提案する。 しかし、その言葉を聞いた柘榴は、青いままの顔をゆっくりと横に振った。 「…………やります」 「……そっか。んじゃあ、社長にも伝えておく。この後、一緒に曲決めような」 「はい……!」 柘榴の返事に、柴田マネージャーはほんの少し安堵したような表情を浮かべる。 「……柘榴、結構頑固だよな」 「っふふ。そりゃあ、あの社長と柴ちゃんのお眼鏡に適う子だもの」 一連のやり取りを見届けたニゲラとローザは、そっと耳打ちし合うのだった。  
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加