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倫理学講義の大教室で
2限の倫理学講義はとても憂鬱だ。
それは教授である江古木老人のせいである。多くの不真面目な学生たちもそう陰口を言うので、きっと間違っていないだろう。
大教室は音楽ホールのように机が階段状になっている。僕の指定席は丁度真ん中あたりの少し左に寄ったあたり。可もなく不可もなく講義を『傍聴』できる位置である。
教壇に近いフラットなエリアの3列目までは『ゼミ隊』と呼ばれる江古木ゼミ所属の女子学生どもの占領地である。その他大勢の一般学生たちは最も遠い最後列近くの外様エリアに座る。きちんと住み分けができている。
「なんでサエキ君、いっつもこんな前に座っとるん?」
右手から聞こえてくる声は同じゼミの加賀美だ。美容系学生のような洗練されたショートボブ。関西弁っぽいイントネーションで、最近よく声をかけてくる。人懐っこい性格なのかもしれないが、そんなに親しくもないのに絡んでくるのは応対に戸惑う。
「真剣に倫理学を勉強するためだって」
ぶっきらぼうに答える。人見知りな自分は親しい友人が少ない。ゼミ隊はもちろんだが、後列の外様たちの雰囲気にもなじめないので、仕方なくこの中途半端な位置にいる。基本僕は勤勉な学生ではない。
「倫理学なんて出席しとれば単位もらえるやん」
「まあそうだけど」
「マジメやね」
「ほっといてくれ」
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