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12
それから二百年後。
二〇〇四年。十二月二十四日。遠い国、日本はクリスマスムードに浮かれていた。
ショッピングモールの中庭にあるクリスマスツリーのまえで、五歳ほどの小さな少女がはしゃいでいる。
「シングルベル・シングルベル・シングル・オール・ザ・ウェイ」
その横では彼女の母親が鞄をあさり、予約したケーキの引換券を取り出そうとしている。
「シングルじゃなくて、ジングルでしょ」
あーそうかと女の子は舌を出す。
「ねえ、ママ。この歌、どういう意味なの?」
女の子がたずねる。母親は、うーんと頭をかく。そういえば、クリスマスソングの英文を言語として認識したことがなかった。
「これはね……」
ケーキを売っているサンタクロースが声をかける。アルバイトだろう。まだ幼く、そして妙に色素が薄い。色白の少年だった。
「これは、鈴を鳴らして一緒に歌って楽しもうって意味だよ」
「へえ、そうなんだ。お兄ちゃん、ありがとう」
少年は身振り手振りで話をする。
「それから、この歌のなかには、ある少年が雪のなかで転んだっていうちょっと恥ずかしいエピソードも入っているんだよ」
「えー、なにそれー。変なのー」
サンタクロースの少年は照れくさそうに笑う。
「そうなんだ。変な歌なんだ。これは、でたらめな空歌だからさ。だって、この歌は……」
「でも、私、この歌大好き!」
女の子が笑う。母親も言う。
「ママも大好きよ」
「へえ、どうしてですか?」
サンタクロースの少年がたずねる。
「この歌には、人を元気にする魔法がかけられてる気がするから」
「あ、雪だ」
女の子が空に向かって両手をあげた。
了
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