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11
翌日、病室が静かになっていることに気づいた医師と看護師が少女の部屋にやってきた。マスクをつけドアを開ける。そこには、ベッドに上体を起こして座る少女の姿があった。
「どういうこと……?」
看護師が頓狂な声をあげる。少女は咳もしていない。そして顔も健康そうに見えた。
慌てた医師が彼女の体温を測る。三十六度三分。平熱だった。
「まさか!」
慌てて医師は彼女の検査を依頼する。そしてその結果に、彼は驚愕することになる。
「奇跡だ。病気がなくなってる」
「え?」
その台詞に驚いたのは少女だった。少女の身体は健康そのものになっていた。再び病室に戻ったとき、少女はあるものに気づいた。
昨夜、少年が立っていたところに水たまりができていたのだ。そして、その日以来、彼女は少年の姿を見なかった。病室のカレンダーは十二月二十四日を示していた。
しばらくたって、少女は退院した。あの水たまりが血なのか涙なのかはわからない。だが、色白の少年が命をかけて、自分の命を救ってくれたのだと思った。
「でも……」
一緒にクリスマスを祝おうという彼との約束は果たせなかった。少女は冬の夜空に向かって彼が歌っていた陽気な歌をうたった。
「鈴を鳴らそう。笑って楽しめるように」
そして、少女は少年を忘れないために彼の失敗したエピソードを歌に織り交ぜた。ソリでの失敗と、それを話す少年の楽しさを。
「ありがとう」
少女は泣きながら歌った。そして、歌いながら笑った。一人ぼっちで鐘の音を想像しながら、子どもの作ったでたらめな歌詞を乗せ、何度も何度も空に向かって、彼女は同じ歌をうたい続けた。
彼女はその後、大きな病気をすることもなく、八十余年の寿命をまっとうした。
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