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 翌日の検査結果は良好だった。カルテを見た医師は驚きを隠せない。 「そんなバカな」  明らかに数値が改善されていた。依然、診断結果は覆らないが、前夜の吐血からたった三十時間で数値に改善が見られるなど、常識ではあり得なかった。 「なにか変わったことでもあったのかね?」  少女は頭をひねるが、思いあたるふしがない。 「あっ、もしかしたら……」  少年の歌が病気を治してくれている? そんな気もしたが、それはあまりにもとんでもないオカルトだった。少女はかぶりを振った。 「なんでもないです。失礼します」  診察室を抜けて、中庭に向かう。いつものベンチに色白の少年がいた。その日、彼は歌をうたっていなかった。 「あの……」  少女が声をかけるまで、少年は彼女の存在に気づいていなかった。 「ああ、きみか」  どことなく顔色が悪いように見えた。少女は、お礼を言った。 「あの、ありがとう。あなたの歌のおかげで、少し身体がよくなったみたい」  少年は、穏やかな表情を作った。 「歌が病気を癒すなんてあるのかな」 「私も信じられない。でも、そんな気がする。だって、あなたの歌を聞いた次の日の検査では、いつも結果がよくなってるんだもの。きっと、あなたの歌の力よ」  そうかと言って少年は笑う。 「ごほっ、ごほっ……」  笑いながら咳きこんだ。 「大丈夫?」  少女がたずねる。少年は口を右手で押さえ、左手をまえに突き出す。
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