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 その日から、少女は毎日、少年のもとに通った。少年はいつも中庭のベンチに座って歌をうたっている。  すっかり暖かくなった夏のある日、少女は少年にたずねる。ベンチのまえでは、傷ついて群れからはぐれたひばりが一羽、その寿命を終えようとしていた。 「どうして、いつも歌っているの?」  少年は、なんでもないといった調子で答える。 「歌で元気が出る人がいるならば、ぼくはいつでも歌をうたうよ。そうだ、鈴を鳴らそう。きみが笑顔になるように」  そう言って、いつもの鼻歌に手拍子をつけた。ベンチのまえのひばりが息を吹き返し、翼を広げて羽ばたいた。 「わあ……」  その姿を見て少女は驚く。そして笑顔になった。 「すごい。あなた、すごいわ」  少年は「たまたまだよ」と言った。それから彼はいろいろな話をしてくれた。アメリカの独立宣言、フランスで起こった革命。どれも昔の話だったが、長年、病室に隔離されて閉じこめられている少女にとっては、そのどれもが刺激的だった。ある日、彼女の検査結果が思わしくない日、少女は彼に無茶な要求をした。 「なにか楽しいお話をして」  少年は、うーんとうなったあと「とっておきだよ」と言ってこんな話を彼女に聞かせた。 「冬のある日、ぼくはソリ遊びをしていたんだ。ほら、このあたりは雪が積もるだろう。子どもが一人で遊べる遊びはかぎられているから」  彼女は耳をかたむける。 「最初は楽しく遊んでいたんだけど、勢いあまって転んでしまったんだ。うわあって」  少年は身振り手振りで説明する。すってんころりんという擬音とともにベンチのうえでひっくり返るジェスチャーをした。 「あはは、なにそれー」  少女は笑う。少年は続ける。
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