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しかし、現実は残酷だ。季節がめぐり木々の葉が赤く染まるころ、少女は診察室で絶望を告げられた。
「最近、触覚を感じなくなっているね」
「え?」
少女は頓狂な声をあげた。
「今、私はきみの腕を力いっぱいつねっている。しかし、きみは眉ひとつ動かさない」
そこで初めて少女は気づいた。医師につねられた腕が内出血していることに。
「おそらく、きみはもう寒さや暑さも感じることもできなくなっているだろう。こうなると、いよいよ……」
そのあとの台詞は聞かなくても想像がついた。
「とにかく、風邪だけはひかないように。今の状態で風邪をひけば、さまざまな合併症を起こす恐れがある。その結果は、言わなくてもわかるね」
彼女は頭が真っ白になった。これから寒い季節がやってくる。触覚を失った彼女にその実感はないが、もうまもなく宣告通りの半年後がやってくるのだ。
十二月。彼女は目が覚めてもうつろだった。ベッドから起きあがる気力もない。検査の時間になっても診察室に少女が姿を現さないことを不審に思った看護師が病室にやってきた。そこで彼女の状態が発覚する。
「三十九度八分。まずいな」
朦朧とする意識のなか、少女は医師の言葉を聞いた。
「私、もう、ダメなのかな……」
看護師が目をそらす。少女の目から涙があふれる。視線の先に見えるカレンダーの日付は十二月二十三日を示していた。
「嫌、私、もっと生きた……ごほっ、ごほっ……」
彼女は咳とともに大量の血を吐いた。
「きゃあっ」
看護師が悲鳴をあげる。
「だめだ。隔離しろ!」
医者のその言葉で彼女は病室に入れられ、ドアの外から鍵をかけられた。
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