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五井の女帝、諏訪野和子の入院を知ったのは、それから、まもなくだった…
伸明が、知らせてくれた…
いや、
伸明が、直接知らせたわけではなく、ナオキ経由…
これには、驚いたが、少し考えて、それほど、仲がいいのか?
とも、思い直した…
とにかく、自宅にいる、私にナオキから、電話があった…
ナオキは、あの後、自宅に戻った…
これは、以前、何度も説明したが、ナオキと私は、別に暮らしている…
それは、なぜか?
それは、ナオキが、自宅に女を連れ込むため(爆笑)…
私といっしょに、暮らしていては、それが、できないからだ…
いや、
もっと、正確に言えば、私とジュン君といっしょに、暮らしていては、できなかったからだ…
ジュン君は、ずっと、ナオキの息子だと、思っていた…
藤原ナオキの血が繋がった息子だと、思っていた…
が、
違った…
ジュン君の父親は、ナオキでは、なかった…
ユリコが、ナオキを騙したのだ…
ジュン君の父親は、ナオキに似ていたらしい…
それを逆手に取って、ユリコは、ジュン君をナオキの子だと、言い張っていた…
が、
それは、ともかく、ユリコが、幼いジュン君を置いて、失踪した…
結果、ユリコの代わりに、私が、ナオキの家庭に入った…
ジュン君の面倒を見るためだ…
だから、当初は、私とジュン君とナオキの3人で、暮らした…
が、
FK興産が、ITバブルの波に乗り、急激に会社の規模が、大きくなるにつけ、私たち3人が暮らす家も、大きくなった…
具体的には、賃貸アパートから、賃貸マンション、それから、億ションへと、飛躍した(笑)…
そして、会社が大きくなって、ナオキも、大金持ちになると、女遊びが盛んになった…
元々、ナオキは、長身のイケメンだが、それでも、決して、女にそれほど、モテることは、なかった…
が、
金を持つことで、女にモテるように、なった(笑)…
要するに、どこかに、飲みに行き、
「…あのひと、IT企業の社長さんですって…」
とか、
「…どうりで、羽振りがいいものね…」
とか、店のホステスの間で、噂話になると、自然と、女が、寄ってくるようになる…
これは、相手が、ホステスのような玄人ではなく、素人でも、同じ…
会社経営に限らず、小説やマンガ、あるいは、スポーツでも、なんでも、それなりに、有名になると、男女を問わず、ひとが、寄ってくるようになる…
それまで、まったく興味のなかったものでも、相手が、それなりに、有名人や金持ちだと知ると、俄然、興味が湧き、寄ってくるようになる…
世の中、そんなものだ(爆笑)…
ナオキもまた、ご多分に漏れず、金持ちになり、それなりに、有名人になると、女にモテだした…
だから、私とジュン君とは、別に暮らしだした…
その方が、都合がいいからだ…
自宅に女を連れ込めるからだ…
つまり、ナオキが、成功したことで、別々に暮らすようになったと、言うのが、正しい…
そして、ナオキは、ジュン君が、逮捕された後、私の住む、マンションを、私名義にしてくれた…
つまり、寿綾乃名義にしてくれた…
これは、ナオキの誠実な人柄を表している…
いかに、事実上の夫婦だったとはいえ、正式に結婚もしていない女に、いくら金があっても、億ションをプレゼントする男は、いない…
要するに、釣った魚にエサはやらないということだ(笑)…
好きな女の気を引くために、男はアレコレ努力をするが、一度自分と男女の関係になり、それが、ずっと続くと、今さらということになる…
だから、もうエサは、やらない…
が、
ナオキは違った…
藤原ナオキは、違った…
だから、余計にナオキを信頼できる…
だから、余計にナオキを好きになる…
そういうことだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、
「…聞いてる? …綾乃さん?…」
と、ナオキが、電話の向こう側から、言ってきた…
「…聞いてるわよ…ナオキ…心配しないで…和子さんが、入院したんでしょ?…」
「…そうだけど…」
私は、それを聞いて、あらためて、先日、会った、和子の様子を思い出した…
あのとき、和子は、落胆していた…
明らかに、落ち込んでいた…
あのとき、ナオキは、和子が、落胆していたのは、私が、伸明ではなく、ナオキを選んだから…
そう説明したが、それだけではなかったのかも、しれない…
体調が、悪かったのかも、しれない…
そして、私の行動が、それに、追い打ちをかけたのかも、しれない…
私が、伸明ではなく、ナオキを選んだことで、追い打ちをかけたのかも、しれない…
が、
冷静に考えると、なぜ、あの場所に、行ったことが、私が、伸明ではなく、ナオキを選んだことになるのか?
それが、わからない…
私は、たまたま、菊池リンに連れられて、あの場所に行った…
それが、真相だったからだ…
だから、まだ、なにか、あるのかも、しれない…
私が、まだ、知らないことがあるかも、しれない…
私は思った…
今さらながら、考えた…
そして、ナオキ…
今、私が電話で話している藤原ナオキは、多忙だった…
経営再建で、忙しかったからだ…
五井から、ひとを派遣され、多忙だった…
だから、あのとき、ナオキといっしょに、五井記念病院から、この自宅のマンションに帰ってきて以来、会ったことはない…
あの日は、一晩だけ、このマンションに泊まったが、翌朝、すぐに出て行った…
つまりは、それほど、忙しいということだった…
それは、考えてみれば、わかる…
この藤原ナオキは、あの諏訪野伸明と、FK興産の経営再建について、記者会見をした…
要するに、ナオキが、自分の持ち株の半分を五井に譲ったのだ…
それで、五井は、FK興産の株主となり、FK興産の再建を請け負うことになった…
当然、ナオキもまた、経営再建に、協力することになる…
だから、忙しいに、決まっている…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えていると、
「…で、どうするの?…」
と、聞く、ナオキの声が電話口から、聞こえてきた…
「…どうするって、なにを、どうするの?…」
「…綾乃さん、鈍いな…和子さんの見舞いだよ…見舞い…」
…そうか?…
…そうよね…
当たり前だった…
きっと、そのために、今、ナオキが、電話をかけてきたに、決まっているからだ…
我ながら、トロい…
やはり、これも、病気のせいか?
癌のせいか?
と、思った…
最近、自分のトロさに、磨きが、かかっている(苦笑)…
つくづく、そう思う…
それとも、歳のせいか?
やはりというか…
歳を取ると、感覚が鈍くなる…
要するに、感だ…
感=直観だ…
若いころに、すぐに、ピンときたことが、わからなくなる…
高齢政治家を例に挙げれば、どっちにつけば、有利か、若い頃には、すぐに、読めたものが、読めなくなる…
いや、
さすがに、私は、それほどの歳ではない…
まだ、32歳だ…
女盛りの32歳だ(笑)…
まだまだ、これから…
私の人生、これからだ…
私が、そんなバカなことを、考えていると、
「…聞いている? …綾乃さん?…」
と、またも、電話の向こう側から、ナオキが、言ってきた…
「…ちゃんと、聞いているわよ…」
私は、わざと、面倒臭そうに、言った…
その方が、効果的だからだ…
すると、すぐに、
「…ゴメン…綾乃さん…」
と、謝ってきた…
すぐに、効果があったわけだ(苦笑)…
「…そんなことより、お見舞いでしょ? …和子さんの…」
と、私は、言った…
「…で、どこに、入院しているの?…」
「…五井記念病院…」
ナオキが、即答した…
そして、それを、聞いた私は、絶句した…
「…」
と、言葉もなかった…
たしかに、言われてみれば、わかる…
五井の女帝が、入院するのは、五井記念病院に、決まっている…
当たり前だった…
が、
そんなことは、おくびにも出さず、
「…でしょうね…」
と、言った…
いかにも、わかったように、言った…
それに、気付かれるのが、嫌だったからだ…
私が、和子が、入院している病院が、すぐに、五井記念病院とわからなかったことを、ナオキに気づかれるのが、嫌だったからだ…
相変わらずの負けず嫌い…
きっと、これは、この前の続き…
この自宅の玄関先で、ナオキと、キスをしながら、交わした会話の続きかもと、思った…
そして、そんなことを、思いながら、
「…で、どうするの?…」
と、ナオキに、聞いた…
「…どうするって、お見舞いよ…お見舞い…いっしょに、行くんでしょ?…」
「…それは、無理…」
ナオキが、即答した…
「…無理って?…」
「…今、忙しすぎて、会社を抜けれない…」
「…」
「…見舞いは、綾乃さん、一人で、行ってほしい…」
「…私一人で…」
「…だって、綾乃さんは、これまで、五井記念病院に入院しているし、先日も、あの病院に行ったばかりでしょ?…」
「…それは、そうだけど…」
「…いずれにしろ、ボクは、すぐには、行けない…だから、綾乃さん、一人で、行ってほしい…」
ナオキが、強い口調で、言った…
こちらが、反論できない、強い口調で、言った…
だから、
「…わかったわ…ナオキ…一人で、行くわ…でも、ナオキ、アナタは、どうするの?…」
「…時間を作って、行くつもりだけど、それでは、遅すぎるから…」
わかったような、わからないような言い訳をした(苦笑)…
要するに、すぐに、時間は作れないから、私は、自分一人で、行ってくれ!…
暇な私は、一人で行ってくれ! と、言うことだ…
私は、思った…
私は、考えた…
同時に、五井記念病院か?
と、思った…
正直、縁がありすぎる(笑)…
この歳で、縁がありすぎる(笑)…
癌であることは、仕方ないとしても、正直、これ以上、あの病院に関わりたくないなと、思った…
入院もしているし、お世話にも、なっている…
が、
それ以上に、やはり、五井家の病院というのが、引っかかる(笑)…
正直、伸明にも、もう会いたくは、なかった…
会えば、やはり、もしかして、玉の輿に乗れるかも、しれない…
そんな自分の欲望が、蘇るのは、火を見るより、明らかだからだ…
だから、会わないのが、一番…
一番だからだ…
ナオキに恩を感じながらも、やはり、心のどこかで、伸明に憧れる…
大金持ちの五井の当主に憧れる…
つくづく、自分勝手な女…
嫌な女だと、思った(爆笑)…
<続く>
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