となりのラブソング

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 きっとこの男は、ちょっとオシャレで「いけてる」ことが大好きな、いたいけな音楽青年だったのではないだろうか。お金はないけど、音楽だけ食べていけば生きていける。そんな人生を望んでここを選んだのだろう。  でもこのままで、いいの?  今のままじゃ、音楽に食べられてしまうよ?  私は言った。 「呪いがなくても、あなたは歌えるよ。「牢獄」じゃなくても、どこでも。ていうか呪いがなくても歌えるようにならなくちゃいけないんじゃない? スターなら」 「……うん、まぁ」 「おまんじゅう好き?」 「え?」 「うちにおいでよ。うちは大丈夫、呪われてないから。「薔薇」だから」 「「薔薇」?」 「あ、私の部屋の名前」 「あ、なるほど」 「こないだ仕送りがあってさ。地元のおまんじゅうがあるの。ひよこまんじゅうっていって、かわいいんだよ」  私は立ち上がりながら、男の手を引いた。  男はすんっ、と簡単に立ち上がった。  軽い……!  私は「火垂るの墓」の、節子の兄と同じ気分になった。うっ、泣ける。一刻も早く、何か食べさせてやりたい。  音楽に食べられてしまう前に。  私は「薔薇」のドアを開けた。 「どうぞ」
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