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窓は開けっぱなしだった。ドアが開いて空気が通り抜け、カーテンがふんわりとひるがえる。
「これこれ。これがひよこまんじゅう……」
まんじゅうの箱を開けながら振り返る。
振り向いて。
そのまま、私は立ち尽くしてしまった。
ひらり、と、男の前髪が揺れたのだ。
そしてその前髪の下には、男の目があった。
瞳が光る。鴨川。まるで乱反射した水面のように、透き通って。
「あ……どうぞ」
「ど、ど、どうも……」
二つの目が私をとらえる。
そう、とらえたのだ。
私はとらえられてしまった。
急に言葉もなくしてしまう。手も足も出なくなる。
それはたとえるならば、古城にはびこる茨のような。
茨。
薔薇。
バラ?
「いい出会いがあるかもしれませんよ」
営業マンの言葉がよみがえる。
「あ、しまった」
「え?」
もしかしたらこの部屋までも、何かに呪われているのかもしれない。
おわり
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