となりのラブソング

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 騒音といっても昼間なら許せる。それに春の芝生みたいな穏やかなポップスは、私も好んで聴くジャンルだった。ギターは多少素人みがあるけれど、歌唱のほうは何だかすてきだ。淡々としながらも、体の芯が心地よくなる。  ていうか、好きかも……。  昼と夜でこんなにも歌の印象が違うとは。あんなにイライラしていたなんて、うそみたいだ。本当にただ切実に、私は夜十一時に眠りにつきたかったのだろう。  でも今は、昼だから。昼の私は、もう少しこの歌を聴いていたかった。  不思議と、苦情を起こす気はなくなっていた。起こしたとしても相手は変人だろうから、無駄だし。  それどころか逆に、部屋の窓を開けっぱなしにしておくことが多くなった。ずっと聴いていられるし、聴いていたい。私はいつしか音楽のサブスクを使わなくなった。そして頭の中では、一日中隣の変人の歌声が流れていた。  そしたらある日のことである。 「うわぁぁぁ」  突然だった。いつものように少し窓を開けていたら、隣から人の叫ぶような声が聞こえてきたのだ。  急に、シャウト?  しかも、ガタン、ガタン、ガタン。暴れるような音まで聞こえ、何だかただならぬ様子である。
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