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その瞬間、はるか先に見えていた金色の髪が、ゆらり、と揺れた。
「だれ?」
ケントはびくんとした。
ルウだ。あの声は確かにルウの声だ。子どもの頃に聞いたきりだったけど、たった二つの音だけで分かる。会えなくなってからも頭の中で何度も何度もくり返し聞いた、糸電話ごしのルウの声。
ケントは叫んだ。
「ルウ。僕だよ。ケントだよ」
「ケントっていうのかい」
突然視界が真っ暗になった。
幅の大きな黒いドレス。気づけば魔女が目の前に立っていた。
ものすごい眼力で見つめられ、空気の壁に打ち付けられたようになる。
「ごめ、んな、さ」
「またあんたか。出ておいき」
言ったとたん、ひとりでにケントの足が動き出した。後ずさりを始めたのだ。もしかしたらこれも、魔女の力なのかもしれない。前に進もうとしても、後ろに引っ張られる。ふわ、ふわ、と、意に反して歩かされてしまう。
「あっ」
一瞬、かかとが支えをなくした。
そこに階段があったなんて。ぶざまにもケントは階段を転げ落ちてしまった。
床に背中がぶち当たる。痛い。体が痛い。頭が、ぐらぐらする。
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